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【神の左手、無意識の右手/ポール・マッカートニーの作り方/2024】

*コロナ禍の2020年、ディスクユニオンのサイトで
ポール・マッカートニー、彼の”音楽の作り方”もしくは”音楽の捉え方”について考察を続けていました。全50回、現時点でも検索すればすべての記事を読めるのですがリンクなどが不明瞭な状態になっているので少しづつ
こちらでもテキストをupしようと思います。
内容も随時変更、追加予定です。
ごゆるりとお楽しみください。

              「序章」
                          宮崎貴士
 「才能とは、何かが出来ると信じることである」~ジョン・レノン

音楽が好きになったら、ギターを弾きたくなったら、、どうする?
10代の頃に一度はそんなことをふと思い立ってギターを買ってみたりした人は多いと思う。
バンドに憧れて、誰々みたいにギターを弾けたら格好いいし!
ついでにモテたり?
まずは、古いギターを従兄弟にもらったり、
親にねだって買ってもらったり。

そして、ギターを持っている自分!ついに誕生!
鏡の前で「ジャカジャーン!」と鳴らしてみて「おお〜!」何がおお!なのか分からないが、その音に感激したり。
で、次はどうする?さて、どうする?
誰かに習う?街で見かけた音楽教室に通ってみる?
学校の音楽の先生に聞いてみる?
まずは、と、楽器屋に行って「初めてのギター教本」を買ってみたり。
ね、そんな状況に覚えがある人は多いでしょう。
それが2020年代の日本ではなく、1950年代の英国の港町リバプールであったと想像してみる。
エルビスに憧れてギターをなんとか手に入れたはいいけど
そこにヤマハ音楽教室はない、
ヒット曲の楽譜集はあったとしてもおそらく(コードネーム(CとかB♭)付きの楽譜が当時あったのか?調査中です)
そこに掲載されているのは歌詞だけ。

*ジョン・レノンやポールが「最初にギターを持った時にどうやってチューニングを学んだのか?誰にコードを教えてもらったのか?」
当時の楽器習得環境について語っているインタヴューをあまり読んだ記憶がない。知っている方がいたら教えてください。

知られている逸話として、ジョンはギターをバンジョーの押さえ方で弾いていたこと。ポールがチューニング方法を知っていたのでジョンにギターのチューニングを教えたのだ。おそらくコードの押さえ方も。

それからの二人は向かい合ってギターを弾き続けた。
ただ、それだけ。
街の音楽教室でバイエルの習得、
オタマジャクシの勉強とかをしていない。
つまり、「やった!ギターだぜ!エルビスだぜ!」と、そこから10年ちょっとで『アビーロード』まで行き着いた。

いやいや、当然にそこに至るまでにジョージ・マーティンとの出会いなどが
あったとしてもだ。今に至るもポール・マッカートニーは楽譜が苦手で(ジョンもジョージもリンゴも)、なおかつ音楽的専門知識を持ってして楽譜を書くこともない(はず)。

そこがザ・ビートルズ、そしてポール・マッカートニーの興味深さで面白さであると思う。
「ジャカジャーン!」とギターを持った段階では私たちも彼らも同じなのだ、以後、音大に通うわけでもなく楽譜の勉強することもなく、ただただ「好きだからやっていた」
それだけなのだ。

「才能とは、何かが出来ると信じることである」

その意味は「やってみたら出来たことを続けていただけ」だ。

さて、
ポール・マッカートニーについて、彼の作る音楽について語りたいと思う。 2024年、現在も現役活動を続けているポール・マッカートニー。
僕が彼の作る音楽に魅了されてからおよそ40年、
「ポールのように曲を作ってみたい、さまざまな楽器を弾きこなしたい」~ザ・ビートルズ時代を含め彼(もしくは彼ら)が作った楽曲を分析するようになったのが自分の音楽歴のはじまりであった。
楽譜の読み書きすら苦手なのに楽器を弾きたい、
そして、その先にある「曲作り」が出来るかも?と思った、その
理由は、ただ一つ「ポール・マッカートニーがそうであったから」。

「ビートルズ時代、ピアノを正式に学ぼうと先生についたこともあった。
でも自分の頭のなかで鳴っている音楽と教えられる音楽が違い過ぎていて止めてしまった」~ポール・マッカートニー
 
 当然、ポールの作っている“音楽”彼の中で鳴っている“音”だけが
この世の”音楽”全てではない。
例えば、楽理がないと構築できないオーケストレーションや作曲法、専門の鍛錬が必要とされる楽器の演奏技術などは様々な文脈を元に受け継がれ、そして演奏されている。
ポールのような独学でも可能な音楽作り、音感の良さだけでは
達成できない領域も当然あるのだ、
それはポール自身も自覚しているはずだ(そこがポールの音楽的コンプレックスになっていることも彼の複雑さの魅力ではある)。

では、独学のミュージシャン、楽譜の読み書きがほぼ出来ないポール・マッカートニーは音楽作りのどこまでを知っていて、そして、あえて知らずにいるその領域で一体何を信じているのか。
彼を知るために、彼の音楽や才能を楽理で説明することは、ポール本人がそれを知らないのに適切な方法なのであろうか?

確かに様々な音楽的能力に元より恵まれ(すぎている)ポール。
その肉体化された音楽力こそが彼の個性、それが才能であるとするなら、彼ほどに恵まれた能力(歌唱のピッチの良さなど)
がない多くの人にとって創作行為は縁遠いということなのか。
そうではないのは自明のことだ。
ポール自身が彼自身以上でも以下でもない存在だから。
そして誰も彼にはなれない、当たり前のことだ。
ポールをいくら好きであろうと多大な影響を受けていようが、必然的に誰もが彼からは良くも悪くも「はみ出てしまう」。
それ自体が実は「個性―オリジナリティ」
ジョンもポールになれないし、逆もそうだ。
ジョンに「イエスタディ」は書けず、ポールに「イマジン」は作れない。

あらためてポールの音楽を探る興味深さがそこにあると思う。
引用出来るかもしれない方法論、技術論、解釈、ポール自身からそれを切り離せるならば、そこには誰にも開かれ参考になる創作の可能性に満ちているはずだからだ。そしてその「ポール流」を本人も語ることがないからこそ
それを探る行為も面白みがあるはず、と信じている。
音楽教室に通わずにも出来る「作曲」!
おお!なんと魅力的な響きであること!

ポール自身が理解している(曲作りの方法論)、
既存のコード理論を彼はどこまで理解しているのか?
何を知らずに何を知っているのか?
どこまでが無意識でどこに意識的であるのか?
そしてソング・ライティングだけが(ポールが作っている音楽)の特徴ではない。優れた演奏力、サウンド作り。
その全てに目配せしながら話ができればと思う。
(ポールが信じている音楽)を共有出来ればと考えている。

価値があるオリジナリティへの道はそこにあるはずだ。
必要なのは「自分には何かが出来る」と確信すること。
「ジャカジャーン」から「アビーロード」への道を、
横断歩道を渡ってみよう。

(改訂版、不定期公開予定です)

宮崎貴士/ 1965年、東京生まれ。 作、編曲家。ソロ名義で2枚(Out One Disc)、2つのバンド「図書館」(diskunion)「グレンスミス」(diskunion)で共にアルバム2枚リリース。 他、岸野雄一氏のバンド「ワッツタワーズ」にも在籍中。 2015年、第19回文化庁メディア芸術祭エンターティメント部門大賞受賞作(岸野雄一氏) 「正しい数の数え方」作曲。他、曲提供、編曲、など多数。 他、ライター活動として「レコード・コレクターズ」誌を中心に執筆。2017年6月号レコード・コレクターズ「サージェント・ペパーズ~特集号」アルバム全曲解説。同誌2018年12月号「ホワイト・アルバム特集号」エンジニアに聞くホワイト・アルバム録音事情、取材、執筆。
2023年より新ユニット「オリビア」始動。新曲「街の灯」発表。
https://youtu.be/riHQ9e2DYPc?si=z1y9U02ahu5zJ7Dx

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