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あれから10年。私は伝える仕事をしています。

この10年間で、震災前と後では大きく環境が、生活が変化した。
子どもだった私は大人になり社会人になった。


2011年3月11日

中学1年生だった私はその日、先輩の卒業式だった。

卒業式後に、憧れの先輩の第四ボタンをゲットした。第二ボタンはもらえなかったけれど、ボタンをもらえたことが嬉しくて友達とはしゃぎながら家に帰った。昼過ぎだった。

昼過ぎに帰ったから家には誰もいなくて、今でもよく見る韓国ドラマを、その当時もお昼にやっていたから呑気に見ていた。カップ焼きそばを食べながら見ていたのも鮮明に覚えている。

その時、地震が起きた。

とっさに机に隠れたけど、いつもと違う地震だと思い、命の危機を感じた私はとりあえず玄関を必死で開けた。

地震が少しおさまり、外の様子を見ると
近所の家の瓦が地面に落ちていた。
それを見てすぐに、自転車用の学校のヘルメットを頭が痛くなるほど深く被った。

私の第四ボタンは卒業式の記憶からすぐに、震災の記憶に変わった。

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それから数日間は怖くて寝られなかった。だからリビングのこたつで寝るようにした。
TVをつけると、どのチャンネルも地震のことを取り上げていてCMもずっと同じ。なんだか気分が悪くなり、胃が痛くなって頭が痛くなった。見るのをやめて自分の部屋に行こうとしたら、母は「辛いのはあんただけじゃない、あんたじゃない」と真剣な眼差しでTVに視線を向けたまま言った。
逃げた自分に嫌気がさした。最低だ自分。これは今起きている日本の映像。だから、ちゃんと現実を受け止めなければ、と思った。だけど、しっかり見ることが、私にはできなかった。

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震災から1年も経たないうちに、私は劇団に入団し、演劇と出会った。
この頃は表現することに、台詞を発することが楽しくて、ただ、楽しくて。学生の役を中心にいろんな役を楽しく演じた。自分の発した台詞で人を笑顔にするって楽しい。コメディって楽しい。こんなに幸せな気持ちになれるんだ。

一度目を背けてしまった地震のこと。演劇を通して思い出すなんて思わなかった。

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2019年5月。震災を題材にした舞台に立たせて頂いた。主演で。

芸歴は今年で10年目だが、いろんな舞台を経験した中でもこの作品は他のものとは全く違う記憶の残り方だ。楽しい記憶より、もがいてもがいて、なんとか届けた。私の中ではそんな作品だった。

この作品は、被災した家族や周辺に住む住民たちが、辛い日々の中でも前を向いて生きていく話だった。
私は被災をしたことがない。友達を、恋人を災害で亡くす経験をしたことがない。自分の経験の無さがとにかく露骨に出た。
だけど殺人犯の役はみんな人を殺したことがあるのかと言われたらそうではない。だから、経験がないからできないなどはもちろん通用しなかった。

地震が発生し、怖がりながらも自分の命を守るシーンの稽古。演出家からのダメ出しは
「怖がっているようにみえる」
この題材はそんな軽いテーマじゃない。「怖がっているようにみえる」ではだめだ。「怖い」じゃないと。
その通りだと思った。私は怖がっているようにみえる芝居をしていた。

私は何にもわかっていなかった。だからあの時見ていられなかった震災の映像を、写真を、記事を、とにかく見た。ドキュメンタリーも、題材にした映画も、全部見た。見終わるといつも、あの時逃げた自分に嫌気がさした。だけどあの時の私とは違う。しっかり目に焼き付けた。

とにかく、自分がやれることは全部出し切った、と言い切れるほどに向き合った。

だけど、被災者の気持ちがわかるかと言われたらそうではない。
きっと被災された方も経験したことがないのにわかるはずないと思っているだろう。リアルではないから。

この作品の中で、「只今地震が発生しました。震源地は~」とよくTVで見るような台詞がある。これは実際にTBSアナウンサーの向井政生さんに声の出演をして頂いた。妙にリアルだった。

この間大きな地震があった際TVをつけたら聞き覚えのある声が聞こえた。TVに映っていたのは向井アナウンサーで、地震速報を伝えていた。
この時、リアルってこういうことかと改めて思った。

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私はあれから10年経った今、自分が経験したことがないことを伝える、届ける仕事をしている。
演じるというのは、俳優という仕事は、そういうものなのかもしれない。
これまでは学生の役が多かったけれど、これから会社員の役や主婦の役など経験したことがない役をやる機会がもっと増えるだろう。いろんな経験することも大事だが、被災のように経験しきれない部分もきっとある。

震災という題材をエンタメに持ち出すのはどうなのか、という声も聞いた。
そういう声があるのも当然だ。きれいごとにしてはいけないからだ。

2011年に生まれた子は今年10歳になる。東日本大震災を知らない人がこれからもっと増えていく。

私は戦争を経験したことがないけれど、火垂るの墓やはだしのゲンを見て「絶対に繰り返してはいけないこと」だと知った。教科書にも戦争のことは載っていたけれど現実味がなかったし、ビビりの私は当時の映像もリアルで見ていられず、夢に出てきそうで目を閉じてしまった。きっと私のように教科書を見ても昔のことだと思うだけだったり、見ているのが辛くて目をつぶる子がいると思う。
だから作品を通して知ることは悪いことではないと、私は思う。
そして災害が起こった時の正しい知識を知ってもらえたらいいなと思う。

この仕事をしている以上、しっかりと伝えなければ。
そういう俳優になりたい。


だけどこの記事をぜひ読んでくださいとSNSに書く勇気はない。
被災した経験談でもなければ、タメになる防災の話でもない。だから、日記としてここに綴っておこう。この気持ちを忘れないためにも。


2021年3月11日。「あれから10年」をたくさん考えた一日だった。

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