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ヒノヒト

 202×年、とある地方のとある斎場で、とんでもない事件が発生した。
 なんと、火葬場で燃やした死体が…生き返ったのである!

 それはさながら、伝説の火の鳥のように。
 燃え盛る火の中から、神々しく輝いて復活を遂げる、一人の一般人。

 復活したのは、年老いた高齢男性だった。
 長く闘病を続け、命が尽き、燃やされたはずだった。どんどんと燃え盛る釜の中から音がして、あわてて扉を開けると…青い火を纏った年若い青年が裸で飛び出してきたのである。

 青年は高齢男性の記憶を持っていた。
 子供の頃の記憶も、老年になってからの記憶も持っていたが、国の研究機関に協力的ではなかった。
 研究機関を抜け出しては、繁華街に繰り出して問題をおこすようになった。若いころやんちゃだったという性格にブーストがかかってしまったのかどうかはわからないが、盗んだバイクを運転中に転倒し、死亡し、その後燃やしても復活することはなかった。

 炎の中から復活した男性が死亡して間もないころ、とある孤独死者が燃やされ、復活した。
 復活しても身寄りはなく、生活していくお金もないので、そのまま運び込まれた研究所に身を預ける事になった。

 この男性は非常に協力的であったため…、研究と解明はかなり進んだ。

 指先を焼くとやけどをし、ケガになり、それなりに治癒はするが、生え変わることはない。
 歯を抜いて燃やしても、復活はしない。
 細胞を採取して燃やしても、復活しない。

 血液からは復活する因子を特定できない。
 体液からは復活する因子を特定できない。
 体組織からは復活する因子を特定できない。
 どうやら損傷があると復活できないらしい。
 どの部分が影響しているのかわからない。

 脳に電気を流して反応を見よう。
 脳に薬剤を投与して反応を見よう。
 脳に刺激を与えればあるいは。
 感情が刺激されればあるいは。
 身体を刺激すればあるいは。

 日々繰り返される、実験と観察。

 やがて男性はアルコールの飲み過ぎで倒れ、再び命を落とした。
 しかし、斎場でまた復活し…心神喪失状態に陥った。
 何度その命を失っても、燃やされるたびに復活をし、そのたびに人の心を失って…、どこでどうしているのか、隠匿されるようになった。

 世の中は『ヒノヒト』ブームに湧くようになった。

 火の鳥を模して名付けられた『ヒノヒト』。
 身を燃やして復活する、その奇跡に陶酔する人が溢れたのである。

『ヒノヒト』は、人々の心の拠り所になった。

 大病を患った人は『ヒノヒト』となって復活することを夢見た。
 復活を信じて焼身自殺を図るものが後を絶たなかった。

 その一方で、どうしようもない負け組人生を送った人は、土葬を望んだ。
 復活などしたくないと、海に身を投げるものもいた。

 ごく普通に燃えて無くなる者がほとんどなのに、自分は復活するかもしれないと心配をする人々があふれた。
 燃やされた時に復活するだけで、それ以外はごく普通の人間であるはずなのに、もてはやされる人が現れた。

 復活してしまったせいで、生きる場所を失った人もいた。
 復活しても、今まで通りの生活を送る人もいた。

 ヒノヒトになりたいと死んでいくものがいた。
 ヒノヒトになりたくないと死んでいくものがいた。
 ヒノヒトになって泣き崩れるものがいた。
 ヒノヒトになって自暴自棄になる人がいた。

 ヒノヒトになったからといって特別な能力は得られない…その事実が人々を蝕んでいった。

 せっかく永遠の命を手に入れても、何かを成し遂げようと考える人は少なかったのだ。

 せっかく永遠の命を手に入れても、学ぼうとしない人は多かったのだ。
 せっかくの永遠の命を無駄にするなと、詰め寄る人は少なくなかったのだ。

 ヒノヒトは、復活するだけの、ただの人だった。

 何かを発見するわけでもない、何かを開拓するわけでもない、何かを生み出すわけでもない、ただのやる気のない一般人だけが増えていった。

 やがて、ヒノヒトは命をもてあますようになった。

 ただただ、その身に平凡な歴史を残していくもの。
 ただただ、その身を消滅させたいと望むもの。
 ただただ、あきらめて鬱々と生きていくことしかできないもの。

 ある時、死体を焼く風習の撤廃が決定された。

 これで苦しみから逃れられる…そう安堵したヒノヒトは少なくなかった。
 穏やかに生きていくヒノヒトが増え、世界は落ち着いたかのように思えた。

 しかし…ある時、災害が発生した。
 地表が燃え盛り、あらゆるところから、ヒノヒトが復活した。
 荒廃する世界を前にして、無気力なヒノヒトは裸で呆然とすることしかできなかった。

 崩れ落ち、土に混じり、炎で焼かれて命を取り戻す…それがこの星の当たり前になってしまった。

 何も生み出さない、変わらない、変えようとしない、おかしな命の在り方。
 永らえようとせず、仕方がないから復活するだけの、意味のない命。

 星が火の塊になっても、命は復活し続けている。
 もはや考えることすら手放してしまった命は、復活する運命に従って崩れていく。

 ただただ永遠に復活し続けるだけの存在を、命と言えるかどうかはわからない。

 けれど…とある宇宙の片隅には。

 成す統べのない、輪廻に囚われ続けているモノたちが存在し続けている……それだけの、話なのである。

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たかさば
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