相棒よ、ここで、永遠に…おさらばだ
……ザっ、ザっ、ザっ、ザっ。
朝、六時。
孤独に歩を進める、私の足底に。
……ガッ!!
いくぶん大ぶりの、刺客が襲いかかった。
コロ…、コロッ……!!
右足の裏、前方やや左寄りで圧迫された武骨なフォルムの曲者は、勢いよくアスファルトの上を転がり、天を仰いだ。
小石が集積したアスファルトの上で、その身を堂々さらけ出す…ホワイトグレーの、塊。
私の足元を狙うとは…なんという……策士。
危うくバランスを崩して、転倒するところだったではないか。
こんなにもごく自然に大地に紛れ込み、健康な人間の関節を痛めつけようと画策するとは。
私の体勢を崩そうと企てた罪は……重い。
3センチ程度の大きさで、165センチの肉体を転ばせようとは、許しがたい。
その悪行、許されると思うなよ!!
お前は今から……市中引き回しの刑に処する!!
……ガッ!!
…コロ、コロ、カッカカカカカッ……!!
勢いよく犯罪者を蹴り飛ばしながら、人けのない道を行く。
……ガッ!!
……カッ!!
時に縁石にぶち当たり、時に道路の真ん中に踊り出し。
……ガッ!!
…コロ、コロ、…コロ、コロ、カッカカカカカカカ……!!
時に予測不可能な場所への逃亡を試み、老いた身を無駄に走らせ。
……カッ……カッ……、ガッ!!
…コロ、コロ!!
時に豪快な空振りを企て、気弱な一般人に恥に塗れる瞬間を見舞い。
心を乱し。
集中力を与え。
やる気を呼び起こし。
粘り強さが生まれ。
気ままに転がり。
自由に止まり。
ナイスキックをスルーし。
失態をあざけ笑い。
思いがけず軽快に進み。
信じられない奇跡をおこし。
感動を呼ぶ物語を生み出し。
出会って、およそ…20分間。
私と、刺客の間に発生した…確かな、縁。
私と、曲者の間に交わされた…確かな、契約。
私と、策士の間に結ばれた…確かな、信頼。
この、およそ27㎥の堆積岩と、40㎥の人体の間にある、確かな…絆。
蹴ることを任せ、転がる力を得て。
道を行く力を与えて、進むべき道を教示され。
互いを信頼しているからこそ、身を預けることができる、この、関係。
……ガッ!!
…コロ、コロ、カッカカカカカッ……!!
ああ、お前は……私の、相棒。
……ガッ!!
…コロ、コロ、カッカカカカカッ……!!
お前がいて……俺は、ここまで、くる事ができた。
……ガッ!!
…コロ、コロ、カッカカカカカッ……!!
運命を共にする、相棒……よ。
……ガッ!!
…コロ、コロ、カッカカカカカッ……!!
共に、この世界を……制そうではないか!!!
……カッ!!
ひときわ力強い、私の一撃を受け止めた、相棒は。
……じゃっ。
前触れもなく、突然……、公園横の駐車場を構成する、砂利に混じった。
……おうふ。
どれが相棒だか、見分けが……つかん!!!
……わざわざ屈んで探すほどでも、ないか。
「……さらばだ!!」
私は、潔く、別れを告げ。
かつての相棒を振り返ることなく、公園の階段を、登ったのだった。
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