見出し画像

伝言ゲーム

 某量販店の、事務室の端で、一人の女性に呟いた。

「私、あの人…すごく好きなんだよね。」

 伝言ゲームが始まった。

 ショートカットの女性から、金髪の女性へ。
 金髪の女性から、中年の女性へ。
 中年の女性から、若い女性とバイト君へ。
 バイト君から、おじさん社員へ。
 おじさん社員から、事務員へ。
 事務員から、本人へ。

「ねえ…今度の休み、買い物付き合ってくんない?」
「付き合ってあげる。」

 本人到達までおよそ一週間か。

 ギラギラした目の青年は、おかしなストーカーと成り果てた。
 うっとおしいので頂かれた後いただいて差し上げた。

 わりとさっぱりしたのど越しだった。


 某大学の、実験室の一番後ろの席で、一人の学生に呟いた。

「僕、あの人…すごく好きなんだよね。」

 伝言ゲームが始まった。

 坊主頭の学生から、金髪のヤンキーへ。
 金髪のヤンキーから、僕へ。

「おい…お前、あいつのこと好きって……マジ?」
「いや、別に。」

 本人到達はしなさそう?

 ギラギラした目のヤンキーは、暴虐の限りを働いた。
 うっとおしいのでのされた後いただいて差し上げた。

 わりと歯ごたえのある食感だった。


 某スポーツジムの、エントランスの前で、一人の女性に呟いた。

「私、あの人…すごく好きなんだよね。」

 伝言ゲームが始まった。

 初老の女性から、初老の女性へ。
 初老の女性から、中年の男性へ。
 中年の男性から、若い男性とマッチョへ。
 マッチョから、マッチョへ。
 マッチョから、本人へ。

「あの…よかったら、パーソナルトレーニングさせてもらいますけど、僕が休みの日に!」
「いいんですか?」

 本人到達までおよそ一か月か。

 ガタイの良すぎるマッチョは、実に丁寧にトレーニングをしてくれた。
 大変心地がいいので、体を鍛え上げることができた。

 筋肉を増やすことに集中していたら、あごが衰えてしまったらしい。
 鋼のような筋肉に、歯が立たない。

 どれだけ歯を立てても、かじることはできなかった。

 ……仕方がないので。

 今日も私は、プロテインを飲みながら。

 旦那のために、たんぱく質多めのお弁当を作っている。


わりといい話のような気がしないでもない(*'ω'*)


↓【小説家になろう】で毎日短編小説作品(新作)を投稿しています↓ https://mypage.syosetu.com/874484/ ↓【note】で毎日自作品の紹介を投稿しています↓ https://note.com/takasaba/