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コンビニの肉まんはなぜうまい

 ……コンビニの肉まんは、なぜ、こんなにもうまいのか。

 食べたいと思った時にすぐ食べられるからうまい。
 最新のスチーマーから出したてだからうまい。
 あっちんちんのちんちこちんだからうまい。
 ハフハフしながら食べるからうまい。
 湯気がモクモクしてるからうまい。
 いろんな種類があるからうまい。
 コンビニ限定商品だからうまい。
 ド定番商品でもうまい。
 とにかくうまい。
 うまい。

 ああ、旨い、実に……美味い。

 肉まんメーカーがめちゃめちゃ本気を出して開発したからうまいのだ。
 コンビニが満を持して売り出しているだけあって確実にうまいのだ。
 店員さんが心を込めて売っているからうまいのだ。
 あの紙の袋に入っているからうまいのだ。
 よし食べるぜと意気込むからうまいのだ。
 なんとなく特別感があるからうまいのだ。
 一個の値段が高いからうまいのだ。
 高い値段だからうまいはずなのだ。

 肉まんは、すべからく…うまいのだ。

 肉まんはうまいなあ……、買ってよかったなあ……。

 朝からずっと忙しくて、昼ご飯を食べ損ねていたから…肉まんのうまさが身に染みる。
 温かい肉まんが冷え切った心身にじんわりと染み込み、エネルギーの枯渇した私にパワーをもたらす。

 美味いなあと思って食べていたら、あっという間になくなった。
 美味いなあと思って色々考えていたら、もう食べ終わった。
 美味いなあと思ってたら、あっという間だった。

 ちょっと物足りないなあ……。

 もう一つ、買おうかな。
 もう二つ、買おうかな。
 いっそのこと、買い占めるかな。

 お腹もすいているし、いくらでも食べられるはず。

 いやいやいやいや……それは悪手だ。

 財布が寂しいからやめとくべきだ。
 食べ切れなくなるからやめとくべきなのだ。
 美味しく食べられなくなるからやめといた方がいいのだ。

 買うんじゃなかったって後悔することになるくらいならやめとこう。

 イートインコーナーの椅子から立ち上がり、肉まんのゴミをくしゃりと握って、一歩、踏み出そうとした私の耳に。

「いらっしゃいませー!ただいま肉まんセール開催中でございまーす!」
「ただいま新発売のこってりカルボナーラまんが出来上がりました!いかがでしょうかー!」
「いかがでしょーかー!!」

 性根魂逞しい店員さんの活きの良い掛け声が!!

 く、くぉおお…、ヤバイ、いかがされてしまいそうだ!!

「期間限定のカルボナーラまん、是非ご賞味くださいませー!」
「ただいま二点購入で20円引きとなっておりまーす!」
「いかがでしょーかー!!」

 店員さんたちの追撃を受け、ついついレジ前に足を向けてしまったのがいけなかった。

【只今調理中】の札が外された、新発売の肉まんの…自信に満ちた声を真正面から受け止める羽目にっ!!

―――買え、買うのだ!出来立ての私を!!
―――買え、買わねば次はもう出会えぬやもしれぬ!!
―――買え、買うがいい!欲しいと思う気持ちをごまかすな!!

 さらに最新式の肉まんスチーマーの中で蒸されている肉まんたちの声までもが飛び掛かってきた。

―――いいなあ、新発売は!!
―――どうせこいつすぐに売れるぜ?
―――僕たちだって買ってもらいたいよう!!
―――私なんか朝からずっと蒸されてるのになあ…
―――大丈夫、あのお姉さんはきっと買ってくれるよ!!
―――そうだね、みんなで熱いまなざし送ってみよっか、それっ!!!

 ジ―――――――――っ……………。

 あ、ああああああああああ!!!!

 肉、肉まんたちの圧、圧がっ!!!


 ……かくして、1500円分の肉まんの面々を引き連れて帰宅したわけだが。


「わーい!!お土産?!うんとね、お父さんは肉のやつと甘い奴…カレーのも一口欲しい!!うわ何これめっちゃうまい!!ちょっとお姉ちゃん中身だけ食べないでよ?!これソースしか入ってないじゃん!!!」
「かじったら中身が全部出たから仕方ないじゃん!!てゆっかあたし全部一口づつ欲しい!!ピザまんは丸ごともらう!!」
「どれもおいしい」

「ちょ…私の分は?!」

 徒歩10分の距離を経て家族のもとにやってきた肉まんの皆さんはですね。

 ハフハフもあっちんちんもモクモクもできたても定番も全く関係なくですね。

 ものの五分で家族に全て美味しく食べつくされましたという、お話なんですけれどもね‥‥‥。

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