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好きが適当すぎる


大学を卒業し、商社で勤め始めた私は、最近とても…怖い思いを、している。毎日の通勤電車で顔を合わせる青年に、付きまとわれているのだ。

「あの。これ・・・。」

今日は、花束を渡された。

おかしな手紙が入っている。便せん二枚にびっしりと書き込まれた、几帳面な文字。…戦慄が走った。

中身を見ることなく、コンビニのごみ箱に突っ込んだ。

会社に相談し、出勤時間をずらしても、二三日に一度は必ずばったりと顔を合わせる。近所に買い物に行けば、いつの間にか後ろに並んでいる。

家から出ることができなくなって、リモートワークに切り替えた。
買い物に行けなくなったので、ネットスーパーを利用するようになった。

ある日、荷物を取りにエントランスに向かうと、自動ドアの向こう側に青年の姿を見た。

警察を呼ぼう、スマホを手に取り、電話をかけようとしたその瞬間、マンション住人が帰ってきて…自動ドアが開いた。

青年が、私の元に駆け寄ってきた。

・・・もう駄目だ、殺される。

命を散らす覚悟を決めた私の前に、青年と・・・若い女性が、飛び出した。

「あの!僕芝小学校6-3の木下です!!!話、聞いて、お願い!!!」
「お願いします、この人の話、聞いてあげて!」


青年は、同級生だった。

なんでも、町で私をたまたま見つけて以来、どうしても私に思いを伝えなければいけない、そういう焦燥感にかられたらしい。

婚約中の彼女がいるのに、なぜだか私の事が気になって仕方がない。気が付くと私を探しに町をうろつくようになり、なぜか私の出現する場所に引き寄せられてしまう。抑えきれない求愛衝動を持て余して、自分でも理解不能なほど私に夢中になってしまった。

彼女さんは結婚式の日取りまで決まっているのに、おかしな行動をするようになった木下君を見て、怒り、悲しみ、混乱し、救いを霊能者兼占い師に求めたのだそうだ。

「あなたが昔かけたおまじない?お願い?が…効いているらしいんです。覚え、ないですか?」

霊能者兼占い師いわく、強力な縁結びの呪詛が効いており、それに諍えず、気持ちを乗っ取られそうになっているとの、事。

…そういえば、私木下君のこと好きだったような、気もする。
…縁結びの神様にお願いしたような、確か。

「ああ、なんかお願いした気がする・・・。」
「本当かい!!僕はね、宮村さんのことが好きで好きでたまらないけど、本当はこの人が好きなんだ、好きなはずなんだ、愛してるんだ、悪いんだけど、君の気持ちにはこたえられなくて!!」

涙ながらに私に訴える木下君。
涙ながらに、その様子を見つめる、彼女さん。

「いやまあ、子供のころの話しだし・・・私、木下君のことなんか今の今まで忘れてたくらいだもん、好きも何も。」

イケメンに育ってたら考えても良かったけどさあ。
ずんぐりむっくりしてるし、背も高くないし、なんか声も高くて好みじゃないし。・・・はっきりいってお断りだ。

「どこでお願いをしたか、覚えてますか?!」

彼女さんの真剣さが怖い。思い出せなかったら首を締められそうだ。
・・・どこでお願いしたんだったっけかなあ。

記憶が薄くなってて思い出せないけど・・・たぶん・・・。

「修学旅行で行った・・・どこだったっけ?」
「…椿さんだ!!!」

木下君は、彼女さんと仲良く…私のマンションから去っていった。

これから二人でおまいりに行って、私との縁結びを消してもらうんだってさ。

婚前旅行、ついでに楽しんでくるんだってさ!!
・・・私、あんなに怖い思いしたのに、なんか腑に落ちない。

私なんて彼氏いない暦、もうずいぶん長いってのに!!

ストーカーがいなくなったので、私は職場に復帰することになった。

仕事に全力投球する毎日は、充実のただ一言だ。
毎日バリバリと働いて、満たされる日々。

大きな仕事が無事に完了したので、少しばかり長期休暇を取ってのんびりすることにした。

…行き先は、子供の頃過ごした田舎町。

ほら、この前ストーカー事件があったからさ、ふと故郷を見に行きたくなったっていうか。

車で片道三時間、私は懐かしの小学校のあった場所にたどり着いた。

・・・ずいぶん様変わりしている。
校舎の形も遊具も、何一つ私の知る影が…ない。
昔観察用の木々が植えられていた場所は、職員用の駐車場になっている。

「トーテムポール、無くなっちゃったんだな…」

昔、校舎の裏には、やけにおどろおどろしいトーテムポールが立っていたのだ。大昔の校長が、原住民からもらい受けたとか何とかで…祭壇らしきものもあって、子供たちは怖がって近寄りもしなかったものの私はこういうグロテスクな造形が、好き、で…。

!!!!!!!!!!!!!!!!

そうだ、私、このトーテムポールに…お願いした!!!

バレンタインにチョコ渡したのに、お返しくれない木下君に、腹を立てて。

――木下サイテー!振られた女の気持ち思い知れ!!
――そうだ、恋愛できないようにのろっちゃお!
――もし万が一恋したらあたしのことしか考えれなくなれー!!!
――大人になったらあたしが振ってやるー!

鳩の死体があったから、それを祭壇において、呪いを、かけ、た・・・ような。

そうだ、セミやらカエルやらいっぱい捕まえてきて、切り刻んで祭壇に乗せてたのを同級生に見つかって、えんがちょされたんだった、黒歴史過ぎて完全に忘れてたー!!!

・・・まずい。

修学旅行の縁結びは、隣のクラスの・・・ええと、誰だっけ、なんか丸っこい子!!その子と両思いになれますようにってお願いした、ような。

あの頃は確か・・・。

とっかえひっかえ、好きな子を変えて。
流行り廃りで、男の子を追っかけて。

隣の席になった子は大体好きになったし、先生にもラブレターだしまくって、高校でド変体教師に目付けられて。

もうこりごりだって言うんで、女子に目覚めて・・・ある日突然何もかもめんどくさくなって人形にハマって、二年前に掃除が面倒になって全部捨てたんだった。

ミニマリスト生活の楽さに気付いて、とことん気楽なお一人様ライフを送ってた、わたし、わたしー!!!

自分の中の黒歴史がぶっくぶっくと湧いて来て、正直自分に・・・ドン引きだ!!

・・・まずい、これまずすぎるよ、いろいろと!!

縁結びの件は完全に人違いだ、木下君がどれほど祈ったところで神さまも??ッてなるに違いない。

のろいの件を解除してもらおうにも、のろいを受け付けてくれたトーテムポールはどこにも存在していない。

しかも私は、木下君の連絡先を知らない。

・・・詰んだ!!!!

詰んだ、けれども。

・・・今更じたばたしたところで、どうにもならないもんは、どうにもならないよね・・・。

・・・どうにもならないなら、どうしようもないよね・・・。

・・・しょうがないよね・・・。

・・・ま、いっか。

にげちゃお。

私は、思い出の小学校を・・・あとにしたので、あった。


こういうのに夢中になった女子の皆さん、
このお話を読んで思い出したことは
ご ざ い ま せ ん か 


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