カビの本気をみた
近所でおいしいものフェアが開催された。
世界各国の、美味しいものが勢ぞろいする、おなかが非常に喜ぶ人気のイベントである。
去年はガパオライスにカオマンガイを堪能し、その前はダルバート・タルカリを堪能し、その前は何だったっけ、ロコモコだったかな。
まあ、とにかくうまくてたまらないイベントなのですよ。
今年はチキンの丸焼きを買って、家に帰って堪能する運びとなりまして。
「ねえねえ、これどうやって食べるの、難しい!!!」
「かじればいいんだって、うーん、がぶがぶ、ガジガジ!!あれ、これ骨かも、まあいっか!!ぼりぼり!!」
「ちょ…!!!剥がす、剥がすから骨は食べるな!!!」
「皮がおいしい。」
やけに大きなチキンは食べるのが大変で相当テクニックが必要だというのに、目につく肉をなんも考えんと突き刺してほじっていく不届きものが!!!
おかげで本来ならばきれいに食べることができるはずの部位がね、ぐっちゃぐちゃで目も当てられん!!!なんてことしやがる!!!
「ちょっと!これじゃあきれいに食べつくせないじゃん!!」
「いいの!!俺が残り全部食うから!!!このまま置いといて!!!」
細かい肉が取れなくなってしまったのでスープにでもしようかと思ったんだけど、旦那がすべて食い尽くすというので、譲ったのだ。
…それが、間違いだった。
翌朝、私は出かける用事があったためリビングの様子を見る暇がなかったのだ。
いつも通り、ソファで眠りこける旦那を確認し、テーブルの上に何もないことを確認しただけで、家を出てしまったのだ。
夕方家に帰ると、娘の職場でバーベキューをやるというので、参加させてもらうことになり。
翌朝、私は…地獄を、見た。
「ちょ…!!!何これ!!!」
リビングの、小さなテーブルの下に!!!
ラップのかけられた…見慣れぬ、物体、物体ぃイイイイイイイイ!!!
猫が食わぬようにと、ラップをきっちりかけ、段ボールに入れられた、丸ごとチキンの、恐ろしき変貌!!
変容!!
変身!!
変態!!
変異ぃイイイイ!!!
チキンがチキンたるチキンの様相を完全に手放し、ふわっふわのわたわたのもっふもふの白いヴェールをまといすぎとるがな!!!!!!!!!!
よく見てはダメだと思いながらも、しっかり細部まで確認してしまった、糸がいっぱい出てて、先端に黒い点が付いてて、それが密集、密集…!!!
記憶に残してはダメだと、ビニールに突っ込んで、ゴミ箱に…迷わず、インだ!!!
なぜその日のうちに食べない、なぜ机の下に隠した、なぜ存在を忘れて普通にメシをガツガツ食う!!!
夕方帰宅した旦那に説教をしようと近づくと。
「あ、なんだあ、捨てちゃったの、すごいカビだったから育てようと思ってたのにー!」
「はあ?!」
旦那いわく、次の日の朝には小さなカビが生えていて、なんかふわっとしてたのがかわいかったから、捨てられなくなってたんだってさ!!!
育ったら愛着がわいて捨てられなかったんだってさ!!!
「なになに、そんなすごいカビなら見たかった!!ごみ箱の中見ていい!!」
地味にホラー好きの娘が…やけにきらきらとした目をこちらに向けてきたぞ!!!
「ダメに決まってんじゃん!!カビの胞子が飛んでエライ事になるわ!!!」
「カビ怖い。」
本気のカビの恐ろしさを知らぬ能天気な者がこの家に約二名。
…そういえばかびたみかんも平気でガツガツ食べている。
…そうだな、かびた餅も削って食べてるしな。
…そりゃあかびたパンとか駄目な部分むしって食べることもあるけどさあ。
「食べられるものを食べられない状態に変容させるような不届きものには飯はやらん!!!」
「やらん!」
料理好きの私と息子は怒り心頭である。
食べ物を粗末にするとは…許さん!!!
「「ごめんなさい。」」
やけに素直な謝罪だが、ずいぶん真心がこもっていないのが気になる。
「次やったらご飯に塩だからね、いい!!!」
「「はーい!!」」
プンプンしながらキッチンに向かった私であったが。
・・・この後、息子に。
腐った玉ねぎを、だまって…差し出されることに、なったという、悲しい、お知らせがですね。
「気を付けよう。」
「気を付けます…。」
食べ物は、大切にしましょうね、ええ…。
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