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面白いおばさん

 親戚のおばさんから、高校の入学祝をもらった。

 このおばさんはパパのお姉さんで、なんというか…少し変わった人だ。
 正月くらいしか顔を合わせないのだけど、なんとなく、インパクトがあるというか…。

 ―――はい、ユキちゃん、お年玉!!
 ―――ありがとう!

 毎年お年玉をもらうんだけど、すごく…変わって、いる。

 保育園の時は、ピカピカの五円玉のブレスレットをもらった。
 一年生の時は、十円玉がみっちりと詰まった貯金箱をもらった。
 二年生の時は、ターバン野口が二人入ったポチ袋をもらった。
 三年生の時は、伊藤博文と、夏目漱石と、野口英世の入ったポチ袋をもらった。
 四年生の時は、紫式部と聖徳太子とダブル岩倉具視の入ったポチ袋をもらった。
 五年生の時は、ラブレター封筒の中からハート形の樋口一葉が出てきた。
 六年生の時は、ピン札の千円札が入った金色の財布をもらった。
 中学一年の時は、中身の入った缶切りで空けないといけない貯金箱をもらった。
 中学二年の時は、百円玉で作った如意棒みたいなのをもらった。
 中学三年の時は、五百円玉がみっちりと詰まったポチ袋をもらった。

 そしてこの度、高校進学が決まって、入学祝をもらったんだけど…。

 一夕方、近くに来たからっておばさんからもらったお祝いの…封筒?
 体何が入っているんだろう、明らかに…重みが違う感じ…。
 すごくきれいな封筒だ、なんかもったいなくて破る気になれない…。
 細い紐で鶴っぽいものが結んである派手な封筒の開け方が分かんない…。

 ママに開けてもらおうとしたら、パパに見せなさいって言われたので、帰宅を待つことにした。

「相変わらずおねえは…あほな事するな……。」

 帰宅したパパに、おばさんから入学祝をもらったことを言って、開けてもらった。

 普段無口なパパだけど、おばさんのお年玉を見るときはいつもため息や愚痴のようなものが聞けるので、ちょっとだけ面白いんだ。
 …なんだあ、紐の部分をずらして取れば良かったのかあ、これからこういう封筒に出会う事もあるかもしれないから、覚えておこう。

 パパから紐と封筒を受け取って、中身を確認してみると……。

「パパ!!どうしよう、すごいものもら、もら、もらっ…!!!!」

 中から出てきたのは…さ、札束!!!!
 慌ててパパに見せると、なんか…喜んでる!!

「ちょっ…?!すごいな、こんなの初めて触った!うわ、ピン札だ、ちょっと!!ママ―!」

 テンションの高いパパなんか、なかなか見ない…珍しいので、思わず目を丸くして見つめてしまった…。

「ええ?!お姉さん何、そんなに…仕事順調なの?なんかプロジェクトがどうとか、忙しいとか言ってたけど…。」
「ゆき、これは貯金しよう、いいね!!」

 いつもテンションの高いママが、若干ドン引きしているような気がする…。すごいなあ、札束って、こんなにも…普段の性格?を変える力があるんだ…。

「全部貯金するのもゆきがかわいそうか…二枚くらい抜いて渡しておこう…って!!」

 ……?

 なんか、パパと、ママの、様子が…。
 どうしたんだろ…。

「ちょ!!これ万札じゃないじゃん!!!おねえは…ほんっとにあほすぎる!!!」
「ああー、こんな事だろうと思った、そうだね、お姉さんなら、うん…やりかねない…。」

 パパが…私に札束を差し出した…って、え?!

「これ!!印刷されてないお金?!」

 パパが札束の一枚目をめくると…何も書いてない!!
 え、ちょっと待って、これってもしかして、ものすごく…ヤバいものなんじゃ……!!!

「違うよ、印刷されてないんじゃなくて、上と下の一枚だけが本物の万札で、中身はただの色紙ってこと!あの暇人め…!一言モノ申してやろう!」
「ゆきちゃん、これはこのままあなたが使いなさい、ね?」

 パパがおばさんに電話して、お礼のような、愚痴のような事を話している…。

 どう見ても百万円に見える札束は、実はただの…二万円と、メモ用紙だったみたい…。


 翌日、私はおばさんの家にお祝いのお礼として、クッキーを焼いて持って行くことにした。

 春休みだし、お菓子作りが趣味だからって思って。

「ああー!ユキちゃん!どうした、何があった!!も~さ、清君から怒りの電話がかかってきてさあ、ヒドイ目に遭ったよ!!あいつはホントユーモアの分からないおっさんで!!毎年毎年笑える演出してんのにさあ、お金で遊ぶなとかホント頭硬いよね!」

 この人、ホントにパパと血がつながってるのかな…。
 真面目で口数の少ないパパとは真反対の、なんて言うんだろ、騒がしくてなんとなく…子どもっぽい感じ?

「あの、すごいものをもらったので、お礼にクッキーを持ってきました。」
「ええ!!マジで!!ユキちゃんのお菓子美味しいんだよね♡今食べたい、すぐ食べたい!!今さあ、弟がパン焼いてんのさ、お姉ちゃんもいるし、一緒に食べていきなよ!!清君には電話しとくからさあ、まあお上がりなさい!!!」

「あの、ごめんなさい、帰ったらママと買い物に行く約束してるから…。」
「まじかー、じゃあ仕方ない、おーい、お姉ちゃん!弟―!!ユキちゃんが来たー!!」

 香ばしい匂いが玄関に漂っている、シュン君は料理上手だからなあ、きっとおいしいものができるに違いない。しまったなあ、ママと約束しなければ…。

 ちょっとがっかりしながら、足もとに寄ってきた黒猫の頭をひとなで…、部屋の奥の方から、猫が続々とこちらに向かってくる。この家の猫はホント人懐こくて…あれ?

 玄関いっぱいに散らばっている靴の端っこに、紙袋が置いてある。
 それを茶色い猫がひっかけて…中身が……。

 ……え?!

 紙袋の中から出てきたのは…さ、札束!!!

「ああー!!もう!!猫!!!ダメじゃんひっかけたら―!!!」
「にゃー。」

 おばさんに持ち上げられて不満げな声を漏らす猫、散らばった札束を無造作に紙袋に入れるおばさん…!!!

「あー!!ユキちゃんおひさ!!高校入学おめでとー!!ねーねー、高校入ってもお菓子作りやめないよね!!あたしユキちゃんのむらさきいものスイートポテト食べたい!!あとねえ、おからクッキーも!!でさあ、ズコットとか作ってみたいと思わない?!」
「やあ。」

 相変わらずフレンドリーなお姉ちゃんと、口数の少ないシュン君…、どうしよう、お金が頭にちらついて、えっと、その!!!

「うん、クッキング部に入るから、また食べに来てね。えっと、じゃあ、また今度!!」
「きをつけてね~!」
「またね。」

「清君に宜しく、あんまカリカリすんなって言っといてね!!」

 おばさんの家を出て、まっすぐ自宅に向かい、ママと買い物をしたのだけど。

 あの札束の映像が…気になってしまって。

 あれはたぶん、私がもらったものと、同じものだとは思うんだけど…。
 もしかしたら、万が一…本物だった、可能性も…。

 なんか、また一つ、おばさんのおかしな一面を知ってしまった……。

 パパに言ったら、絶対におばさんに電話しちゃいそうだし……。
 言えないよね……。

 とりあえず、私は…貰った札束を、使わないで、貯めておこうと、思う……。

 何となく、使う気になれないし、そのままお守りがわりに机の引き出しにしまっておこうかな……。

 …だって、なんか、ちょっとお金持ちになったような気がするっていうか。
 …だって、なんか、使っちゃいけないような気がするっていうか。

 来年のお年玉も、札束がもらえそうな予感が、するんだよね……。

 私の机の中が、お金持ちっぽくなるのは、そんなに遠くない未来の事かも、しれない……。

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