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未知との遭遇

 ……。

 ………?

 なんか、外が…騒がしい気がする。

 ぼちぼちの音量で流していた動画を止め、しばし耳をすませ……。

 ──は、ちはっ

 ……?

 ──ちわ、ちわ

 ……なんだ?

 聞いたことのない鳥の声が聞こえる。

 ここはマンションの最上階なので、たまに鳥が間近で囀さえずることがある。ベランダの庇の上で屯しているようで、やけに鳥の声が耳に届きがちなのだ。

 普段は、なんとなく不躾で荒廃感の漂うカラスの叫び声や、スズメのかわいらしいおしゃべりを聞く事が多いのだが、比較的山が近いからか…時折正体不明の鳥がやってくる。
 ちゅっちゅくぴー、ぴゅくぴゅくぴゅー、るるるるぴー…ナニをいってんだかさっぱり不明だが、わりと私は耳を傾けるのが楽しみだったりするのだ。

 ──ちわ、ちわ、ちわん

 ……コレは今までに聞いたことがないタイプの声だな。

 やけに力強い、ちょっと子供っぽい感じの。

 ──ちあ、ちあ、ちわん

 ……というか、ホントに鳥?

 なんとなく、どことなく、犬っぽいような気もする。

 ──あん、わん、やん

 ……仔猫っぽいような、小さな子どものような?
 絶妙に文字にしづらい、獣の言語とでも言えばいいのか。

 ……誰だ、騒いでるのは。
 もしかしたら…時節がら迷い猫が落ちている可能性もある。
 …ちょっと見ておくか。

 聞き慣れない声の持ち主のその姿を確認しようと思い、そっと窓辺に近づいてみる。

 ………。

 気付かれたかな?

 繊細な鳥は、窓辺に移動する足音を聞いて飛び立ってしまうことがある。とびきり魅惑的な声を聞き、これは録音したいと抜き足差し足忍び足で近寄った結果…二度と聞けなくなってしまった囀りは少なくない。

 ──ぅわん、あん、ちあん

 ……ふぅ、良かった。
 どうやら声の持ち主は、わりと細かいことを気にしないタイプらしいぞ。

 そっとあたりをキョロキョロと見渡してみる。電線の上には誰も止まっておらず……地面にも誰もいないな……。

 ──ふぁん、ぅわん、ちわっ

 ……声が前方から聞こえる。
 鳥は庇の上にいるわけではないようだ。

 ──あよ、はよ、かよっ

 ……うん?
 二匹いるのか?
 なんか声色が変わったような……。

 ──はよはよ、あまよっ
 ──ちあちあ、ちわっ

 声が移動しているような…、って、あれは!なんか、黒いのがいる、遠くからも…飛んできた!!

 向かいの家の屋根にとまっているのは、まさかの……カラス?!

 ちょっとまて、カラスってこんな鳴き声だったっけ?!
 もっとガーとかカァカァとかさあ、こんなかわいらしい感じの、あざとい高音出せるの?!意外過ぎて、思わずまじまじと…

 ──おはよっ!
 ──ちわっ!

 ちょ…!!

 なんか今あいつら、挨拶したけど?!

 窓に張り付いて、様子を伺うと!!

 ──ガァ〜!
 ──かぁ~!
 ──あょ〜!
 ──ちぁ〜!

 まるで待ち合わせをしていたかのように、4羽揃って飛び立つ……黒い面々!!

 ……もしやカラスに擬態した、怪しげな生命体じゃあ、なかろうな。

 真実は如何なるものかは、わからないものの。

 とある街のとある場所には、ずいぶんおかしな鳴き声のカラスがいるという、お話。

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