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無料ショートショート

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解説の必要のないショートショートをジャンル無差別でまとめています。随時追加予定、ほのぼのからホラーまで幅広く公開中。
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記事一覧

ドア

 激安スーパーのバイトを終え、廃棄弁当を一つもらって帰宅中の私は、おかしなものを見つけた。  いつもの帰り道、歩道のど真ん中に……、ドアがある!!  ええ?!なに、これ!!  ちょーウケるんですけど!!!  アスファルトの上に、ドアだけが立ってる!!  枠も何もないから、ど○でもドアよりも貧弱っていうか!!  こんな目立つ場所に、一体だれが!!  ……もっと近くで見てみよ!!  ドアに駆け寄って、まじまじと観察をば。  古めかしいドアノブの付いた、茶色いドア…何こ

カツラ

 今の時刻、およそ6:15…、九時間に及ぶ勤務を終えた俺は、朝日に照らされるアスファルトの上をいつもよりいくぶん軽やかな足取りで進み…住んで八年目になるアパートへと向かっていた。  …今日はいい感じに廃棄の弁当がもらえたんだよな。カツカレーに赤飯おにぎりが二つ、ツイストドーナツ3個入り。昨日は硬くなった唐揚げ棒一本だったから、喜びが大きくてね。  上機嫌で人けのない道を歩きながら、時折進行方向に顔を出す太陽の光の眩しさを手のひらで遮る。…ずいぶん日の出が早くなったなあ、つい

のぼり

 正月にふと思い立ち、朝のウォーキングを始めて…早三か月。  すっかりモーニングルーティンとして身についた僕は、今日も早朝の町を一人…歩く。  向かう先はコンビニだから、ただ朝飯を買いに行くだけという噂もあるわけだが。まあ、アパートからコンビニまでは歩いて10分ちょっと、行きと帰りと買い物、その他もろもろで合わせて30分…ちょっとした運動にはなっていると思う。心なしか、ベルトが少しゆるくなったような気がしないでもない。  朝一番、まだほんの少し薄暗い時間帯に出歩くように

猫のはえる町

 私は老いた両親の世話をするため、歩いて20分ほどの場所にあるマンションに毎日通っている。  雨の日も、風の日も、寒い日も、暑い日も、熱のある日も、元気な日も、成功した日もやらかした日も・・・必ず行かねばならない。  すっかり通い慣れてしまった道を、ゆく。  幹線道路から少し離れた位置にある住宅街の細い私道を抜けていくのだが、そこに…癒し系ゾーンが存在している。  そこを通るたび、日々のささくれ立った心が、和む。  このあたりには猫がたくさん住んでいて、実に気さくに気

几帳面な旦那さん、がさつな奥さん

「…住吉区の倉庫の鍵の件、何かご存じないですか?」 「ちょっと聞いてないです…」 「いつもグラウンドゴルフ大会で使っていたパソコンがあるんですけど、パスワードご存じないですかね?」 「私にはわかりかねます…」 「先月の議会で提案されたイベント企画の書類があると思うんですけど」 「主人の活動にはノータッチだったので…何も聞いてないです。」 「奥さんね、本当に何も知らないの?少しくらいは旦那さんのこと知っててもらわないとこういう時に問題になるんですよ」 「ご主人がいない今、

知識欲の行方

知っていること 知らないこと 知りたいこと 知りたくないこと 知らされたこと 知らされたくなかったこと 知るべきこと 知らなくていいこと 知らせること 知らせてはいけないこと 知ってしまったこと 知ってはならないこと 知りたい欲と知りたくない欲 知りたい心が生まれる 知りたい気持ちがあふれる 知りたい衝動が抑えられない 知りたいのだと叫ぶ 知りたくない心が生まれる 知りたくない気持ちが胸の中で広がる 知りたくない拒絶でいっぱいになる 知りたくないのだと叫ぶ 知りた

スキキライ

彼氏が好き好き、大好き! 優しい声 かっこいい顔 高い背 私をじっと見つめてくれること 頭ポンポンしてくれること 数学を教えてくれること おいしいカップ麺作ってくれること 歌がうまいこと 私をかわいいって言ってくれること いつも手をつないでくれること 彼氏が、大好き! いつも優しい声 いつ見てもかっこいい顔 高すぎる背 私をじっと見つめてくれるもの 頭ポンポンしてくれるもの 難しい数学の問題を解いてくれるんだよね おいしいカップ麺作ってくれるのよね 歌がうますぎてうっと

猫のおすし

 うちには、猫専用の電気マットがある。大きさおよそ45×80センチ、ビニール素材でできた防水タイプの、フローリングっぽいデザインがお洒落なちょっといいやつだ。  ずいぶん前に旦那が知人から頂いたキッチン用のホットカーペットは、毎年冬になると二階の廊下に設置される。真冬の底冷えする廊下で暖を取ることができる優れものは猫達の人気のスポットとなっていて、朝、昼、晩、七匹の猫たちが入れ替わり立ち代り利用しているのだ。  マットの上に無防備に寝転がる猫もいれば、礼儀正しく丸くなる猫

ドア

 仕事を終え、コンビニでメシを買って帰宅しようとした俺は、おかしなことに気が付いた。  いつも歩き慣れている、歩道のど真ん中に……、ドアがある。  ……なんだ、これは。  アスファルトの上に、ドアだけが立っている。  ……テレビ番組の収録か?  辺りを見回すも…誰もいない。  とりあえず…避けるか。  ドアの横を通り、前に進む。  なんだ、スルーできるんじゃん…と思って、前を向くと。  ……少し離れた場所に、ドアがある。  ちょっと待て、ドアが…移動した?  

ハッピーボックス

 仕事を終え、コンビニでメシを買って帰宅した俺は、おかしなものがあるのを発見した。  ワンルームの、部屋のど真ん中に……、段ボール箱がある。  ……なんだ、これは。  宛名も、メモ書きもない。  ……母ちゃんが来たのか?  来るという話は聞いていないけどな。  とりあえず…開けるか。  ガムテープを剥がして、開けてみる。  ……段ボールが入っている。  壊れ物でも入っているのか?  近頃の梱包は無駄に厳重だからな……。  ガムテープを剥がして、開けてみる。  …

ばけもの

 わんわんはちいさないぬ  赤い月の昇った晩に、世界の狭間に生まれたいぬ  モコモコとした毛皮と、キラキラ光る目を持つ、かわいいいぬ  ちいさないぬは、小さな女の子と出会った  二人はいつも一緒  わんわんは小さな女の子のほっぺをぺろぺろとなめた  小さな女の子はわんわんの頭をぽんぽんした  ワンワンはちょっと大きくなった  小さな女の子より、大きくなった  ぼこぼこした体と、ギラギラ光る目を持つりりしい犬  りりしい犬は、小さな女の子と一緒にいた  二人はいつ

蓄積されてゆく『もこ』

 もこもこしたものが、好きである。  手触りのまろい、柔らかい物体が大好きである。  毛足の長い、埋もれる生地が大好きである。  とりわけ、冬のアパレル商品には目がない。  毛糸の手袋、マフラー、帽子、フリースのアウター、ふわふわしたパジャマ、ムートンブーツ、ヌイグルミみたいな靴下。  少々部屋の中が狭くなってしまうけれども、そんなことはてんで気にならないくらい、私は毎年着膨くれる。  白いもこもこのパーカーのかわいらしさと言ったらもう!  ポカポカと温かいもこもこの

~あらすじ~ この星に暮らすのは、土と、緑と、獣。穏やかにただただ繰り返される、命の定律。しかし、その中に混じることのない、唯一の存在があった。 なぜ存在しているのか、なぜ律から外れているのか、なぜ、なぜ、なぜ…。 好奇心旺盛な土は、孤独な存在に質問をする。 交わされる意思、伝わる意志、そして、遺志。 やがて時は流れ、星の終わりが訪れた。 その時、唯一の存在が思ったこととは。 1,星に暮らすもの  ……広い宇宙の、とある銀河に、ありふれた星があった。  二つの燃える星

年末の振る舞い

こちら年末に書いたお話です(*'ω'*)  私の生まれ故郷は、海が近い、小ぢんまりとした古い町だ。  高層ビルなどはどこにもなく、少し歩けば山や田んぼが容易に見つかる、しかし住宅やチェーン店などはそれなりに駅前に揃っているような、田舎寄りの中規模都市である。  発展は緩やかで、とびぬけた産業や特産品のない町ではあるが歴史は古く、いわゆる神事が盛んな土地だった。  神社での舞の奉納、神楽、季節の祭りに、年末のお焚き上げ…いろんな行事がそこそこあって、子供の時分には積極的に