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老人が出てくる話

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介護、老い、老人が出てくる物語を集めました。ほっこりものも胸糞ものもあります。
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記事一覧

おじいちゃんの宝物

 マサキのおじいちゃんには、大切にしている物がありました。  シミだらけの、百科事典みたいな本です。 「この切手帳はね、すごく価値のあるものなんだよ。さあ、マサキに見せてあげようね」  おじいちゃんの宝物は、年代物の切手帳でした。  開くたびにぎしぎしとおかしな音を出す古い切手帳の中には…ずらりと自慢のコレクションが並んでいました。 「おじいちゃんの宝物は、全部貴重なものなんだよ」 「これは1枚10万円もするんだよ、売る気はないけどね」 「切手というのは、使うと価値がな

そうめんとひやむぎ

今日のお昼ごはんは、…そうめん 大きなざるの上に、くるっと丸まった白い麺がずらっと並んでる 大きなお皿の上に、ネギに生姜、ミョウガに刻み海苔、いりごまにワサビ、天かす、大葉が並んでる おつゆの入った器が九つ、お箸にスプーン、台ふきんが四つにティッシュボックス… テーブルの上は、とってもにぎやか 「じゃあ、いただきまーす!」 「「「「「いただきまーす」」」」」 食卓は、とっても賑やか 夏休みの間は、みんなで一緒にお昼ごはんを食べている ママ、おじいちゃん、ひいおじい

かとりせんこう

かとりせんこう、ぐーるぐる じじっ、じじじと、もえていく もわ、もわ、けむり・・・けむたい くん、くん、におい・・・ちょっとくさい カが・・・にげていく カが・・・きえていく かとりせんこう、ぐーるぐる じじっ、じじじと、もえていく カは・・・どこにいく? かとりせんこうのけむりのないところ かとりせんこうのにおいのとどかないところ かとりせんこう、ぐーるぐる じじっ、じじじと、もえていく わたしは・・・ここにいる かとりせんこうのけむりのなか かとりせんこう

正座

 雅文は朝から憂鬱でなりません。  なぜなら、今日、親戚の家で法事があるからです。  お寺さんに行って、ずっと正座をしてお経を聞いていないといけないのがたまらなくいやなのです。  しかも、その後和食屋さんでお昼ご飯を食べなければいけません。  雅文は和食が好きではありませんでした。刺身はべちょべちょして生臭いし、煮物は硬くて変な味がするし、ご飯は味がしないし、味噌汁は苦いからです。知らない大人たちがたくさんいる場所で食事をするのも気が進みません。行儀にうるさいおばあち

提灯、スイカ、ほおずき、ウマ、ウシ

 さやかがお盆におばあちゃんの家に行ったら、仏壇に変なものがたくさん置いてありました。  薄紫色の提灯、オレンジ色の変な花のようなもの、スイカ、丸い葉っぱの上に乗ったおままごとのごはんのようなもの、そして…棒がさしてある、ナスとキュウリ。  いつもは仏壇の前におりんのセットがあるだけなのに、やけに豪勢で様子が違っていて…何事だろうと驚きました。持ってきたお供えの赤福を置く場所がないので、どうしたものかと立ち尽くしながら、まじまじと見入っていました。 「これはねえ、お盆飾

ぼたもち

 ミカには、苦手なものがありました。  おばあちゃんの作る、ぼたもちです。  ベタベタしているし、ボソボソしているし、ねちょねちょしているし、ごはんがつぶれていて気持ちが悪いし、甘すぎたりしょっぱかったりで落ち着かないし、見た目も泥団子みたいでマズそうだし、どうしても好きになれなかったのです。  ママはおばあちゃんのぼたもちが大好きで、美味しい美味しいと絶賛してはいつも四つも五つも食べるのですが、ミカは一つを食べ切るのさえ苦痛でした。パパも必ず二つ食べるし、弟のゲンキも

おばあちゃんのお茶菓子

 弥恵には、半年前から一緒に暮らすようになったおばあちゃんがいます。  89歳の腰の曲がったおばあちゃんです。歩くのがえらい(きつい)ので、1日中ちゃぶ台のところにある座椅子に座ってテレビを見て過ごしています。 「やえちゃん、お湯とお茶のセットをお願い。」  一階の和室にいるおばあちゃんは、1日に2回、お茶を飲みます。  学校がない日の10時と3時にお湯を沸かすのは、弥恵の仕事です。 「は~い。」  時間になるとおばあちゃんから声がかかるので、弥恵はキッチンに行って準

べんじょがみのこと

 ぼくのおじいちゃんは、べんじょがみをつかっています。  べんじょがみというのは、トイレットペーパーのことです。  しかくくて、すこしゴワゴワした、やわらかいかみです。  大きさは、せいかつかのきょうかしょとおなじぐらいです。  うすさは、しゅくだいのプリントよりも、あつい。  まっ白なかみとはちがういろですが、白いです。  ひょうめんをかんさつすると、小さないろがてんてんになってついています。  おじいちゃんにきいたら、しんぶんしがリサイクルされているといっていました

なかなおり

ちいちゃんとけんかした だって、ちいちゃん…わたしのきいろいクレヨン、おったもん たいせつにしてたのに、いちばんはじめにつかったもん もういっしょにあそばないっていった いいもん、まあちゃんとあそぶから いいもん、こまちゃんとあそぶから いいもん、しんくんとあそぶから もうちいちゃんには、こえかけてあげないってきめた ひとりであそんでても、しーらない ひとりでないてても、しーらない えみちゃんとけんかした だって、えみちゃん…わたしのスケッチブック、よごしたもん

おじいちゃんの宝物

御年88歳、毎日元気いっぱいのおじいちゃんには…宝ものがたくさんある 家族と暮らしてきた、自分で建てたこのおうち 大好きだったおばあちゃんの写真 結婚式の時のビデオ 首から下げている結婚指輪 21冊の交換日記 本榧の足付碁盤と碁石のセット お気に入りの力士と一緒に撮った写真 サイン入りのミステリー作家の初版本 初任給で買った懐中時計 48歳の時に摘出した胆石 23歳の時に切ったちょんまげ フルでそろっている自分の乳歯 桐の箱に入ったへその緒 縁起のいい蛇の皮コレクション ご

線香のにおい

おばあちゃんのうちは、線香くさい 朝行くと、お仏壇のある部屋から線香のにおいがする 昼行くと、縁側の方から蚊取り線香の匂いがする 夜行くと、お仏壇のある部屋から線香のにおいがする お泊りすると、寝る部屋の中は蚊取り線香の匂いでいっぱいになる 朝は、果物をお供えして、チンと鐘を鳴らして線香をあげる 昼は、蚊がたくさんいるから、風通しのいい場所で蚊取り線香を焚く 夜は、おぼくさんをあげるときに、チンと鐘を鳴らして線香をあげる お泊まりの時は、蚊にかまれないように蚊取り線香

せいざ

……ちょっと、ヤバイ ……足が、きつくなってきた ビリビリの、予感がする ……かなり、ヤバイ ……足が痛くて、たまらない ビリビリは、このあとすぐ、確実に…やってくる ……マジで、ヤバイ ……足の感覚が、失くなってる ビリビリ、ビリビリ ……足の指がしびれてる ……足の甲がしびれてる ビリビリ、ビリビリ、ビリビリビー ……足の裏がしびれてる ……足の裏に針が刺さってるみたい ビリビリ、ビリビリビー!! ……足が、足が、足が足が! ……足が、足が痛くてたまら

おばあちゃんのおちゃ

「おばあちゃん、こんにちは!」 「はいはい、こんにちは、よくきたねえ」 まいにち、おばあちゃんのおうちにいくわたし 「さあさあ、おちゃでも、おあがり」 「ありがとう、いただきます!」 おばあちゃんは、まいにちおちゃをだしてくれる 「きょうのおちゃうけはね、ぼたもちだよ」 「もぐ、もぐ・・・おいしい!」 おばあちゃんのおちゃには、おやつがついてくる ぼたもち、せんべい、あめ、マシュマロ、どらやき、チョコレート、こおらせたぼうジュース、ふかしたおいも、みずようかん、ぜ

老人玉

街を飛び交う、危険な玉 どこからともなく飛んでくる、神出鬼没の恐ろしい玉    …ヒュンッ ―――アアア、むしゃくしゃするぅウウウウ!!!    …ヒュンッ ―――誰だ!!こんなごみの捨て方をしたやつは!!! 突然襲いかかる流れ弾を…華麗に避ける    …ヒュンッ ―――はあ?!何だって!!!    …ヒュンッ ―――どこ見とるんだ!! 勢い任せの乱暴な玉を、薄皮1枚でかわす    …ヒュンッ ―――おい!!店員はいないのか!!    …ヒュンッ