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動物が出てくるお話

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犬、猫、その他…動物が出てくるお話をまとめています。有料記事は文末に作者による解説を付けています。解説部分は有料にしていますが、お話は最後まで無料で読めますのでご安心ください。
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記事一覧

猫のはえる町

 私は老いた両親の世話をするため、歩いて20分ほどの場所にあるマンションに毎日通っている。  雨の日も、風の日も、寒い日も、暑い日も、熱のある日も、元気な日も、成功した日もやらかした日も・・・必ず行かねばならない。  すっかり通い慣れてしまった道を、ゆく。  幹線道路から少し離れた位置にある住宅街の細い私道を抜けていくのだが、そこに…癒し系ゾーンが存在している。  そこを通るたび、日々のささくれ立った心が、和む。  このあたりには猫がたくさん住んでいて、実に気さくに気

猫のおすし

 うちには、猫専用の電気マットがある。大きさおよそ45×80センチ、ビニール素材でできた防水タイプの、フローリングっぽいデザインがお洒落なちょっといいやつだ。  ずいぶん前に旦那が知人から頂いたキッチン用のホットカーペットは、毎年冬になると二階の廊下に設置される。真冬の底冷えする廊下で暖を取ることができる優れものは猫達の人気のスポットとなっていて、朝、昼、晩、七匹の猫たちが入れ替わり立ち代り利用しているのだ。  マットの上に無防備に寝転がる猫もいれば、礼儀正しく丸くなる猫

ばけもの

 わんわんはちいさないぬ  赤い月の昇った晩に、世界の狭間に生まれたいぬ  モコモコとした毛皮と、キラキラ光る目を持つ、かわいいいぬ  ちいさないぬは、小さな女の子と出会った  二人はいつも一緒  わんわんは小さな女の子のほっぺをぺろぺろとなめた  小さな女の子はわんわんの頭をぽんぽんした  ワンワンはちょっと大きくなった  小さな女の子より、大きくなった  ぼこぼこした体と、ギラギラ光る目を持つりりしい犬  りりしい犬は、小さな女の子と一緒にいた  二人はいつ

はったり

 はったりかまして、はや十年。  俺はこの口先一つで生きてきた。  小さなことを大きく。  些細なことを大げさに。  つまらないことを仰々しく。  バカバカしいことを声高高に。  小さい奴らが、俺を讃えた。  臆病者どもが、俺に怯えた。  性根の腐った軟弱者らが、俺を持ち上げた。  知能の低い未熟者達が、俺に媚びた。  はったりかまして……はや百年。  俺はこの口先一つで、生きてきたのだ。  小さなことを大きく取り上げ。  些細なことを大げさに伝え。  つまらない

線香のにおい

 ……ああ、今、線香のにおいが、した。  なんてことない日常で、ふわりと香る、辛気臭いにおい。  どこにも姿がないのに、なぜかにおう、その気配。  このにおいは、いったい。  このにおいは、どうして。  このにおいは、もしかして。  スン、スンと…鼻を鳴らして、あたりを確認する。  ……よくにおいを嗅いでみたら、線香じゃ……ない。  鼻腔に届いた、コーヒー独特のコクのある香り。  キッチンのシンクの端に…、ドリップコーヒーのカスが落ちている。  香りは、空中にふわ

サギ

 毎朝ウォーキングに行く大きな公園には、アオサギがいる。  群れでいるのではなく、単体だ。  公園はわりと繁華街に位置するので、団体で住むには適さないのだろう。  隣接する幹線道路の反対側にはのどかな田畑が広がっており、横には公園内の池につながる細い川が流れている。  おそらく、推測ではあるが…、一級河川を巡るうちに公園にたどり着き、住処にしたと思われる。公園内には釣り堀があるので、食料となる魚がたくさんいるのだ。  アオサギは、毎日見かけるわけでは無い。  鴨やカラス

犬くさいエレベーター

 親の住んでいるマンションは、ペット飼育可の物件である。  猫は二匹、犬は一匹ないし合計15キロまでの飼育が許可されている。  ゴミ出しや買い物に向かうときに、チワワやコーギー、シェトランドシープドッグ、よくわからないモサモサの犬、ゴールデンレトリバーを見かける事がある。最近見なくなったが、秋田犬やボルゾイなんかもいた。  私は普段わりと犬に飢えていて…すれ違う際、ついつい目が愛らしい姿を追ってしまう。  猫とは違う一直線の愛情、無邪気な振る舞い、豪快なしっぽブンブン。親

几帳面な猫

 実家の猫が、慣れない。  毎日顔を合わせるようになって、まる三年。  攻撃こそされないが、全くなつかない。  掃除の際に近づけばそそくさと立ち去り。  餌を食べている横に立てばそっと立ち去り。  極力対面しないよう、絶対に同じ空間にいないよう、動き回る。  限りなく堂々と、避けられている。  私は熱心な猫愛好家ではないので、友好的ではない猫に媚を売るような事はしない。  ばったり出くわした場合は仕方がないが、わざわざ姿を拝むために近づくような事はしない。  基本、

※飼い犬が死んでしまう話注意※ 犬の具合がよろしくない。 17歳ということもあり、このところめっきり体力が落ちて足元はおぼつかず、食欲もないようだ。 病院に連れて行き、点滴を受け、家に帰ってきたところで女性に声をかけられた。 「あの、チョコちゃんのお母さん。病院いかがでしたか。」 「あまり状況は良くないですね。」 近所に住むというこの女性は、最近毎日のように家を訪ねてきている。 「私、チョコちゃんのことがかわいそうでかわいそうで。」 この女性は、先月飼っていた愛犬

この令和の時代に、Gメン'75を見た話

 ただ今の時刻は6:45を少し過ぎた頃。  私と息子は、毎朝近所の公園にウォーキングに出かけ、ラジオ体操をして帰ってくることを日課としている。今朝も6時ちょうどに家を出て、公園を半周し、いつもの場所でラジオ体操の歌を歌い、ラジオ体操第一第二を踊ったばかりだ。  今朝は少々雲が多くて風が強い。遠くの空にやけに重たそうな雲が見えるので、午後からの下り坂を予感しつつ、いつものコースを歩いて家に向かっていると。 「トイレ行ってくる」  ラジオ体操をして腸が活発化したらしい息子

おにぎりころりん、 ばちゃばちゃぎゅちゅびちゅぬちゅにちゅぐちゅびっちびちびちばっちゃばっちゃ……!

 ずいぶん気候が良くなったので、おにぎりを持って大きな公園に出かけることにした。  朝もはよから米を二合炊いて、せっせと握って、リュックに背負って。  うっかりお茶を持ってくるのを忘れてしまったけれど、まあ…自販機で買えばいっか。  今日は仕事も休みだし、久しぶりにのんびりとした自分時間を楽しもうじゃありませんか。  歩いて60分の公園までの距離を、頭の中をすっからかんにしながら、歩く、歩く、歩く、立ち止まる、歩く、歩く、メモをする……、あ、信号が点滅してる、ちょっと走

抹殺の丘

 ……ああ、ずいぶん暖かくなったな。  朝六時、ルーティンと化しているウォーキングに出かける私は、キャラクターモノの半袖Tシャツを装備している。  ほんの少し素肌丸出しの腕に寒さを感じるが、5分も歩いていれば心地よい涼しさと感じられる事だろう。  おそらく今日も、小一時間の散策から帰るころには…うっすらと額に汗が浮かぶこと間違い無しなのだ。  街中には、ずいぶん華やかな色合いがあふれるようになった。  ガーデニングに勤しむ家庭の玄関先には、かわいらしい花々が咲いてい

ヘタレ病み桃太郎が気の毒すぎて涙出る(。>Д<)

 むかし、むかし、とある所におじいさんとおばあさんが住んでいました。  よく晴れたある日、いつものように、おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。  おばあさんが川で洗濯をしていると、大きな桃が流れてきたではありませんか!!! おばあさんは甘いものが大好きだったので、大喜びでそれを拾って背中に担いで家に帰りました。  おじいさんが芝刈りから帰ってきたので、おばあさんは事の次第を説明して、大きな桃を切ろうとしました。  すると、桃のてっぺんに包丁を入

みみずのおんがえし

 土砂降りの翌日、ウォーキングに出かけた僕の目に…赤茶けたものが、映った。  朝一の、公園のウォーキングコース上、まだ所々雨の名残が残る、アスファルトの上に目立つ、ひも状の物体。  …これは、ミミズだ。  そうか、もうミミズが出てくる季節になったのか。  冬の間は、雨が降ってもあまりミミズが出なかったような、気がする。  冬眠でも、しているのかと思っていたんだけど。  空を見上げると、雲ひとつない、青。  今日は日差しも強かろう。  …せっかく春になって外に出てき