見出し画像

たからうたストーリー「マスカット」


神戸学院大学現代社会学部の岡崎ゼミでは、地域のたからもの、その出会い、語り、想いを音楽にする〈たからうたプロジェクト〉に取り組んでいます。以下は「チーム Nomura」のライター担当による「たからうた」の制作過程に関する記事です。

毎年思うよ、自分は一年生


私たち「チーム Nomura」は、神河町で加門果樹園を親子で経営する加門和弘さんと息子の英樹さんに出会い、果樹園の「たからもの」である葡萄をテーマに「マスカット」という楽曲を制作した。
https://youtu.be/J2_inhKiu3s

加門さんたちは、愛をこめて葡萄づくりに取り組んでいた。加門果樹園では13種もの葡萄が栽培されていた。特にオススメなのがシャインマスカット。父の和弘さんが葡萄栽培を始めた当時、同業の農家の中でも人気が高かった品種だ。私たちは青春の甘酸っぱい思い出とマスカットは似ていると感じた。そのフレッシュな感じ、スカッとする感じを題名にしたいと思い、曲名は「マスカット」に決めた。

私たちは加門さん親子へのインタビューで印象に残ったことを話し合い、野村心源さん(2年生)が話し合った内容を歌詞に盛り込んで作詞した。

歌の最初のフレーズ「流れる時を一つに」。これは、加門さんが長年葡萄づくりに取り組む中で、いろんな苦労があり、時が流れる中で、変わっていったこともあったけれども、貫く思いは一つだったということを表現している。果樹園の近くを流れる小田原川の綺麗な水を守りたいという話も聞いた。時の流れと川の流れを重ねてイメージし、小田原川という名前もそのまま歌詞に入れた。

「変わって良くなることも 変わらないで良いことも そこにあって 声になって 想いを運んでいったんだ 小田原川」

続くフレーズは「この空を この緑を 全て変えてゆく夢と希望 それが胸熱くして 明るい未来と今 待ち合わせ」。この言葉は、英樹さんの「もっと地元の人に美味しい葡萄を届けたい」という想いと、夢と希望に燃える心でこの町の未来を変えてゆくんだという気概を表している。

和弘さんのお話で一番感銘を受けたのは、葡萄栽培をはじめて二十年経っても「毎年はじめて1年生だ」という言葉である。これが「毎年思うよ 自分は一年生」というフレーズになっている。

取材から歌詞を作ろうとするとどうしても堅くなるので、ユーモアも忘れないようにしたい。勝ち負けじゃないものを追求しているんだという話から「負けや勝ちじゃない価値」というフレーズを、また、果実の爽快感をイメージして「嫌なことをスカッとさせる葡萄」というフレーズを作ったが、「カチ」や「(マ)スカット」という語では韻をふんで、言葉のおもしろさを表現している。

チルい時の流れと緑の交響


作曲と音楽制作も野村さんが担当した。

取材で実際に神河町を訪れると、自然が豊かで、のんびり時が流れているのが、いまどきの言葉でいうと「チルい」と感じたと野村さんはいう。加門さんは「毎年1年生」として天候や状況も変わる中で毎年挑戦を恐れず楽しんでいた。その姿にふれて、野村さんは、今回はこれまで作ってきたのとはまったく違うジャンルの作品にチャレンジしたいと考え、チル系のHIP HOPに挑戦した。

イントロとエンディングには、「地元に根付いた葡萄園を」と語る英樹さんへのインタビュー音声をラジオ風の音にして入れている。また、プクプクプクという水泡のような音は、岡崎教授が神河の川で採取したフィールド音を加工したサウンドである。メインボーカルは野村さんだが、チーム全員で歌った「Come on!」というワンフレーズも入れてみた。

野村さんがDTMで楽曲を仕上げると、上田陽菜乃さんが中心になってスマホでミュージック・ビデオを制作した。私たちが果樹園を訪問したのは5月なので、マスカットはまだ成熟前の若々しい緑色をしていた。マスカットの緑は五月の神河町の自然の景色とも響きあっていた。動画はフレッシュな緑の交響を感じる作品にした。マスカットの粒と川の水泡を重ねたシーンはおもしろい映像になったと思う。

3つのチームは、それぞれの取材をもとに音楽を制作したので、曲の雰囲気はどれも大きく異なるのだが、驚いたのは、全部の曲に共通するものがあったことである。それは「笑顔」というフレーズである。私たちは、神河町のたからものを取材し、たくさんの笑顔に出会い、語られた言葉を受け止めて、たからうた「マスカット」を制作した。

甘酢っぱさの凝縮したマスカット=音楽を、多くの人に味わっていただきたいと思う。(チームNomura:上杉真由・丸山颯空)

加門果樹園にて:加門和弘さんと共に


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?