となりの井上さん(仮)案件

危惧していたことがついに起こってしまった。

しかもいたいけな二人の幼い少女とわが家を巻き込んで。

わたしはこれを「となりの井上さん(仮)案件」と呼び、後世に記録に残すことにする。


そう、あれは、とある3月下旬の午後だった。

わたしは、いつものように自宅でnote内をパトロールしていたのだが、インターホンが鳴ったので、画面をのぞき込んだ。

そこには、二人の幼いこどもたちがうつっていた。

「ああ~ん? ピンポンダッシュか?」

ピンポンダッシュとは、インターホンをピンポーンと押して、住人が出てくるまでに、その場から全力疾走で逃げ出すこどもたちの遊びである。


しかし、こどもたちは、逃げ出す様子もなく、そこにいる。

こどもがいないわが家になんの用だ?

疑問に思いながら、玄関のドアを開けてみた。すると……


そこにいたのは、小学校低学年とおぼしき二人の可愛い少女達であった。

一人がおそるおそるという感じで口を開く。

「こちらは、井上さん(仮名)のお宅ですか?」

ああ……

ついにこの時が来てしまった。

いつか起こるであろうと思っていたこの案件。

となりの井上さん(仮)案件。

しかも、犠牲になるのは、いたいけな少女達。


わたしは、ため息をつきながら、答えた。

「ごめんねー。うちは田村さん(仮名)なのー」

がっかりする少女達。

「井上さん(仮)はおとなり」

ほっとする少女達。

「と、そのお隣。両方井上さん(仮)」

目を丸くして、少女達は顔を見合わせた。


そう、うちの隣は二軒とも井上さん(仮)なのだ。夫と、いつか何かおこるよね、きっと! と言っていたが、まさかそれを引き起こすのが、子どもたちであったとは!!


少女達の一人が再び口を開く。

「あの……名前はポンタ君(仮名)なんだけど……」

どうやら、お友達の名前はポンタ君(仮名)というらしい。しかし、近所づきあいなどないマンション暮らし。こどもの名前を言われてもわからんのだ。

「あー、ごめん。おばちゃん、お友達の名前までは、わからんなー。まあ、二つに一つだ、がんばれ!」

そう、激励して、わたしは、買い物へ行くために室内に戻った。

少女達は、とりあえず、隣の家を訪問することにしたようだ。


支度を調えて外に出ると、少女達が隣の家の前でうろうろしている。

「どう? おともだちの家、見つかった?」

どうやら、隣の家のインターホンを押してみたが留守だったようだ。

しかし、少女のうちの一人がひと味違っていた。

「あのね、多分ここだと思う。あそこがね……」

そう言って、さっき、お友達の名前を教えてくれた方の少女が、なぜ、自分がその家が自分達が探している井上さん(仮)の家なのかを、根拠とともに説明してくれた。

素晴らしい!!!

この年齢にして、杉下右京もまっ青の着眼点。そして、それを元に仮説を立てるとは!!

おばちゃんは思った。証拠を元にして推理して、それを実証する。それはまさに事件の渦中にある君たちの権利だ。こんな楽しいこと、おばちゃんが奪うことはできない!!

そうして、わたしは、

「まあ、がんばって~!」

と、言い残して、そのまま買い物に行った。まあ、めんどくさかったとも言う。


小一時間買い物をして帰ってくると、まだ少女達がいて、たたたっと走って近寄ってきた。

「あのね、あのね」

と、目をキラキラさせて、話しかけてくる。

「おう。お友達の家は見つかった?」

「うん! さっきの家の前で待ってたら、もう一つの家からお父さんが出てきてね……」

どうやら、偶然にも、当たりをつけていた家とは別のもう一つの家から、見覚えのある大人の男性が出てきたので、ポンタ君(仮)のお父さんかもしれないと思いつき、話しかけたようだ。

この実行力。さすが、名探偵の卵。←違うw

おばちゃん、感服したよ。


きっとこの事件は、君達の人生の中で、忘れられない記憶となるだろう。

そして、いつか、君達が大人になって、noteにたどりついたとき、思い出せるように、おばちゃんはこの事件を、『となりの井上さん(仮)案件』として、ここに記しておこう。

君たちの将来が楽しみだ。

君達の未来が幸せになるように、世界に笑いが絶えないように、おばちゃんは今日もおもしろい記事を書こう。

未来の杉下右京に乾杯!


※注釈:知ってる人は多いと思うけど、一応解説。「杉下右京」とは、水谷豊演じる、TVドラマ&映画「相棒」の主人公です。警視庁で暇な部署である特命係所属の警部で、干されていますが、持ち前の天才的な頭脳で次々と事件を解決します。いつも紅茶を飲んでます。現在の相棒は、反町隆史演じる「冠城亘(かぶらぎわたる)」です。ちなみに、特命係に配属される相棒の名前は、「か」で始まり「る」で終わるというジンクスがあります。



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