風量測定をしないダクト空調は怪しい
現在の家作りに求められる「快適・省エネ」についての技術的ポイントを
工務店側の視点でご紹介。
ひそやかに、前回の続きです。
前回の内容を一息でまとめると、
「住宅の高断熱化の当然の帰結として、床下エアコン・小屋裏エアコンが花盛りだが、エアコンは最終的に風で熱を搬送するので、風が必要な場所にどれだけ送られる設計がなされているかが、エアコンが効く・効かないの要。」
だった。(一息だと息切れが否めませぬ。)
だので、細やかな空調設計をしようと思うと、畢竟ダクトを使わざるを得ない。
ダクトを使った設計となると、もはや工務店の一家言ある名物社長や断熱にうるさい意匠設計者による「おおらかな空調計画」とは一線を画するジャンルとなる。
ダクト式エアコンは保温された空気を搬送するという点において、非常に優れているが、同時に留意すべき点がある。それはダクトという狭い空間に風を送るので、いかに空気を押し出すかについて事前にしっかり計算しなくてはいけないという事だ。
これを「圧力損失計算」という。
各ダクト式エアコンにはダクト内に空気を押し出す力を示す値がある。
これをファン特性という。
例えば、私がよく利用するダイキンのパッケージエアコンの天井埋め込み形ダクト式エアコンSZRM50は以下のファン特性をもっている。
縦軸がこのエアコンのファンが空気を押し出す力(機外静圧)を表し、横軸がその時の風量を表す。つまりこのエアコンが100Paの機外静圧で運転している時、16m3/minの風量を搬送できる、と読める。
また(前回例示した)図にあるような空調システムにおいて、保温巻ダクトをグラスウール巻φ150のフレキダクトを使ったとする。
このダクトに風を通した時の圧力損失はメーカーのカタログより以下のようになる。
風量は150m3/hなので、縦軸より150m3/h(2.5m3/min)の位置を探す。
それを水平になぞり、φ150ダクトとの交点を見つけ、それを垂直におろすと
ダクト1m当たりの圧力損失(Pa/m)を導ける。すると、1.5Paと読める。
同様に吹出口の圧力損失をカタログより導く。
対象の吹出口の品番はK-DGS4。
圧力損失曲線より2.5m3/mの際の静圧は約10Paと読める。
つまりダクト長が10m(曲がりなし)、吹出口がK-DGS
4だった時、合計の圧損は
10m×1.5Pa=15Pa
端末は10Pa
合計25Paとなる。
よって、十分150m3/hの風量を確保できる。
実際は吸込み側の圧力損失や、ダクトの曲がりによる圧損加算、ダクト分岐の圧力損失等があり、もっとややこしい。
で、ここからが肝要。
設計上で「静圧が100Paなので、風量は16m3/minだな」となっても、実際その通りかは別問題。
計画通り物事が進むのであれば今頃ソ連は万人に平等な差別のない国家となっていたはずだが、ペレストロイカでプーチンでドカンとなっているのは
歴史的事実。
ダクトの中も例外に漏れず。
計画通り風量が確保できる場合もあれば、そうでない場合もある。
なので、求められるのは「実際、どれだけでているか?」なのだ。
私は関わった物件すべてにおいて、この風量測定を行ってきた。
方法は色々だが、例えば画像にあるように、吹出口にファンネル(筒)を被せて、風量を計測する。
そうすると、下の絵のようなことが往々に起きる。
部屋Aの吹出口は200m3/h、部屋Bの吹出口は150m3/hの風量。
同じ大きさの部屋A,Bとで風量が違うと、温まり方、冷え方に違いが発生する。なので、このようなずれが出た際に、この二つの吹出口を調整して、風量が揃うようにする。
これは住まい手の満足度に直結する。
もし、風量を測らないとどうなるか。
例えば住まい手から「部屋Bが暑い」と連絡があった場合、
エアコンの能力不足なのか、風量が足りないのか、バランスが悪いのか、
住まい手が暑がりさんなのか等、その理由を絞り込むことが難しくなる。
つまり、折角ダクトを使って細かい設計ができるのに、最終的には成り行きになる。成り行き任せという点では床下エアコン・小屋裏エアコンとあまり変わらなくなる。
しかし、住宅のダクト式空調において、この風量測定・調整を行っているケースは少ないと感じている。
「風量測定をしないダクト空調」はその計画も施工も怪しいと考えてよい。
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