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正しくダクト式空調を設計・施工する

現在の家作りに求められる「快適・省エネ」についての技術的ポイントを
工務店側の視点でご紹介。


前々回、体感見学会について書いた。

この記事の最後に「次回、現場を見学いただいた前先生について書く」と予告していたが、早くも1か月経過。
我ながら、筆が遅い。

そんなこんなで、前先生。
東京大学の准教授。
主に、住宅の<快適・省エネ>を研究対象にされていて、発信も多い。

フィールドワークをとても大切にされている先生で、とにかく、およそ<快適・省エネ>文脈に関する現場には自ら足を運ばれていて、「体が二つあるんですよね?」と疑いたくなるぐらい精力的だ。

そのどちらかの体で、はるばる愛知県の現場にお越しいただいた。
ご覧になった意図は「ちゃんと設計・施工されているダクト式空調」を見学するためだ。
前先生の現在のテーマの一つに「ダクト式空調をちゃんと設計・施工する」がある。ダクト式空調の対極がダクトレス(全館)空調であり、即ち床下エアコンや小屋裏エアコンだ。それらは空調の設計という観点では曖昧さが残り、その曖昧さを高い断熱性能や、熱が混ざりやすいプランなど、建物側の配慮によって、カバーする必要がある。(念のため、否定的ではない。でも、あまりにもダクトレス全館がもてはやされるので、実態として曖昧さが残り、プラン的制約や温度ムラやエアコンの保証など留保があることを理解すべきだ。)

対して、ダクト式空調は温度ムラ軽減、間歇運転(スケジュール運転)が可能、建物プランの自由度が高い、などメリットは多い。
しかし、ダクト式空調を「ちゃんと設計し、きっちり施工する」必要がある。
実態として、これが怪しいと前先生は考えてらっしゃった。
どうも「ちゃんと設計し、きっちり施工されていない」のでは?
で、私もそう思っている。

ダクト式空調は、ダクトを使えばそれだけで、温度ムラ軽減、プランの自由度ましまし、にはならない。
むしろ、「ちゃんと設計」できると言う事は、ちゃんと設計しなくてはならないと言う事なのだ。
ダクト式空調の設計は確かに専門性が高い。
・エアコンの能力選定、・ファン特性を見て静圧確認、・ダクト種類(φ、粗度、保温等)選定、制気口選定(面風速、到達距離、防露、フィルター種類等)、換気選定(一種?三種?外気処理?)、・ダクトルート確保、・メンテナンス方法確保
などなどこれらは氷山の一角。
こういった事や水面下の氷山の大部分まで行き届いた設計が「ちゃんと設計」なのだ。

また、「きっちり施工」もやっかいだ。しっかり施工図を作って、現場で齟齬が起きないようにして現場に挑まなくてはならない。また、現場では設計より圧力損失が増さないような施工が求められる。

「ちゃんと設計・きっちり施工」はなかなか大変なのだ。
私はダクト式空調を4つのプロセスに分けている。
①設計
②施工図作成
③施工
④測定(風量測定)
この4工程がしっかり行われてはじめて、住まい手に満足いただける
温熱環境をご提供できる。
しかし、現在、日本の住宅で提供されているダクト式空調のサービスは結構綱渡り。①はできていたとしても、②をしていないことが多く、そうなると、③において現場に入って不測の事態が発生し、木造住宅の必殺技『現場合わせ』によって、お茶を濁してカウントスリーを奪う状態が横行。
また、④で風量測定を行わないので、設計通りの施工ができているのかの確認もとれていない。
なんと、危うい!

そんなこんなで、私は思いを一緒にする仲間と一緒に、「ちゃんと設計・きっちり施工」のダクト式空調を広げるべく、プロジェクトを立ち上げることになりました。
そのプロジェクトでは①~4工程のうち、特に②を実践し、それを踏まえた③の施工を行い、④で①~③を検証する、という本来あるべきプロセスを仲間たちと広めようと思います。
この件については今後の続報をお待ちください!

さて、前先生来訪の続き。

前先生に私が実践してきた、①~④の工程についてご説明。
特に私は全物件の風量測定(④工程)を行ってきた。
それによって、①~③をブラッシュアップしてきた。
前先生からも、この点についてご評価いただき、私も自信を深めた。

筆者と前先生

私が培ってきたダクト式空調のノウハウや業務フローは、どの現場でも応用できる普遍性の高いものだと思う。
それらを広め、戸建て住宅の<快適と省エネ>に少しでも寄与したい、と柄にもなく道徳的な事を言って、この回を終わりたいと思う。
それではご機嫌よう。

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