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全館空調体感見学会のご報告

現在の家作りに求められる「快適・省エネ」についての技術的ポイントを
工務店側の視点でご紹介。


イベントのご報告。
2月の中旬に、名古屋市内と、愛知県東郷町の合計2物件の全館空調・体感見学会を、株式会社ユニソン主催で行った。

株式会社ユニソン。東海地区においては、外構用のブロックメーカーとして建築関係者で知らない者はいない存在だが、実は住宅の熱環境をサポートする事業を展開している(現時点では東海地区だけ)。
私はその事業を立ち上げたメンバーだが、独立した今もタッグを組んで事業を推進している。
どちらかと言うと、私が色々ご託を並べて、ユニソンが実際に施工をする、という感じ。

さて、体感見学会。
全館空調(であったり、ややこしい空調システム)の良さを言葉でツラツラ語ってもなかなか伝わらない。
やはり、体感していただく事が一番。
「言葉より語るもの。」
高倉健さんの世界観なのだ。
そこで、夏と冬にプロ向けに開催している。
(毎回、開催できるのは施工をした工務店様とお施主様のご理解とご協力のお陰です。ありがとうございます。)

画像① 見学会の様子

特に愛知県東郷町の物件は見どころが多かった。
以下、その見どころについて
①これから主流となる等級6の性能
②パッシブデザインを実践(夏の日射遮蔽と、冬の日射取得)
③天井埋め込み形のパッケージエアコンを使用
④エアコンや換気のフィルターがすべて、壁面や床面にある

見どころ①、②については温湿度計測と消費電力データをもとに確認する。
※なお、冬の計測はいつも<暖房22℃設定・連続運転>で行っている。
何故なら、暖房22℃設定は空調業界における一つの基準であり、その設定温度でどの物件も計測することによって、実際に空調室が何℃で、また非・空調室が何℃になるのか、その時の消費電力がどれだけなのか等のパフォーマンスについて横断比較ができるようになる。

グラフ 日射熱があった2日間の室温・消費電力

特に日射熱が多かった2023年2月15,16日のデータをみる。
外気温はこのエリアの冬にしては寒く、明け方は氷点下になった。
ただし、両日ともにこの地域らしい雲一つない真っ青な空で、太陽は燦燦と降り注いだ。
暖房室はLDK、洋室1、洗面脱衣所。それら全ての部屋で設定温度は22℃を超え、LDKはお昼頃28℃を超えた。冷房温度の基準を26℃においているので、28℃はオーバーヒート。夏でも暑い。
何故、ここまで暑いか。それはもちろん太陽のお陰。
『太陽がいっぱい』アランドロン賛歌なのだ。

約4600wの日射熱

先ほどの画像をもう一度見る。すると、南面している掃き出し窓からガバッと日射熱が流入し床を熱く照らしているのがわかる。
これがものすごい熱エネルギーを有しており、16日のお昼ごろには南面する掃き出し窓3本からおよそ4600wの熱が流入している。
4600wと言えば、900wの電気ストーブ5台分の相当する。
それだけの熱エネルギーが「LDKの室温を28℃」にまで上昇させた源泉。
しかも無料。太陽熱だから。
太陽は人類に平等に降り注ぐのだ、ハレルヤ。
で、赤外線でみるとこんな感じ。

赤く染まるLDK
(撮影:前真之准教授)
そして、私 アーメン
「背中は無様に汗ばんでいたことを神に告白します。」
(撮影:前真之准教授)

この赤外線画像は16日の11時ごろ。
床、壁、天井は28℃。
室温も28℃。
この時、外気温は約5℃。
よって、23℃の大きな内外温度差を作っている。
前述のグラフをみていただくと、日射熱が多い時間帯ではエアコンの消費電力は落ち込んでいるので、4600wの日射熱の流入によって、エアコンが運転をセーブしている状況が分かる。
実生活ではLDKが28℃になるまで運転し続けるというハワイでアロハな生活はあまり考えられない。
こういったケースでは暖房運転を停止し、送風モードにして、LDKの熱を分配することを推奨する。幸いにして、ダクト式のエアコンを採用しているので、建物内の空気を1時間当たり2回分グルグルを回すことができる。

しっかり日射熱を取り込む設計によって、LDK室温が上昇していると同時に、建物性能も等級6という優れた性能になっているからこそ、しっかりと保温し、流入した日射熱を流出させないようになっている。
また、日射遮蔽もしっかり考えられており、夏の日射流入を抑えた設計となっている。
細かい説明は省くがηAc=1.0、ηAH=2.1となっている。
吹出口のないトイレも20℃を超える熱環境になっているのは見逃せない。

見どころ③
以前から住宅での全館空調と言えば、パッケージエアコン(業務用エアコン)の天井埋め込み形を使うケースが多かった。
この物件もその方法論を踏襲しているが、建物性能が昔とは様変わりしているのでアップデートしている。
何が一番違うと言えば、エアコン能力だ。
昔は「延べ床面積10坪で1馬力」が相場だった。
なので、35坪ぐらいのよくあるサイズ感の住宅だと、4馬力(11.2kw)のエアコンとなり、動力電源が必要になった。
しかし、この物件は約34坪の延床に対して5.0kwのエアコンを採用している。

小屋裏のAC設置画像 手前が熱交換気、奥がパッケージエアコン

ダクト式エアコンは小屋裏内にダクトが縦横無尽に走る。
「それがちょっと・・。」という家作りのプロも多い。
また、前述の通り、昔ながらの全館空調イメージ=パッケージエアコンのダクト式という図式があり、「今風の高断熱住宅に合わない」という考えもある。
しかし、ダクト式エアコンにはダクト式エアコンの良さはある。それは温度ムラの軽減や、間歇運転が可能、という点だ。
計測データをみていただくと、全ての温度計測点で22℃以上を達成できているが、夜間でもLDKとの温度差が2℃程度ある。これぐらいはあまり大きな問題にならないが、修正が可能だ。
また、この画像をもちだす。

この画像、3度目の登場

ここに吹出口がある。ここからそよそよと弱く風が出てくる。
この吹出口内にある「風量調整用ダンパー」を絞ってあげることによって、風量を可変できる。
風量の多い・少ないで室温を操作できる。
これはダクト式エアコンによって、ダイレクトに各部屋に風を送ることによるメリットだ。
また、連続運転をしなくても各空調室の室温をある程度コントロールできるので間歇運転が可能になる。
「連続運転の方が電気代安い。」という都市伝説がまかり通っているが
間歇運転の方が安い。

家族が誰もいない日中は切る。
旅行中は切る。
冬の夜間は切る。(例えば18℃以下にならない程度に設定温度を変えてもよい。)
それでよい。

床下エアコン、小屋裏エアコンが増えている実感がある。
それはそれでよい。
しかし、床下エアコンで「2階の室温を今からちょっと上げたい。」という対応ができるか甚だ疑問だ。基本的には連続運転になるだろう。

アップデートされたダクト式エアコンにはそういう良さがある。

見どころ④
メンテナンス性について。
メンテナンスは2種類あると考える。
・日々のフィルター掃除
・本体の交換可能性が担保されている。

前者は間取りにもよるが、この物件は壁面と床面に全てのフィルターを設けた。フィルターはエアコン・フィルターと熱交のフィルターだ。

熱交のフィルター掃除を語る私
(撮影:前真之准教授)

間取りに余裕のない場合、どうしても天井面にフィルターがくることが多いが、圧倒的に壁面にある方が掃除が楽だ。
脚立に乗って、天井の蛇口にコップをあてがうようなら水を吞む回数は減って、脱水になるに違いない。
蛇口は壁にあるからこそなのだ。
フィルターも壁の方がよい。

将来的に本体の交換を空調屋だけでできるか、も大事な要素だ。
この物件も小屋裏に埋め込んだエアコンを空調屋だけでおろせるような配慮をしている。

そんなこんな。
長くなったが、次回この物件をご見学いただいた東大の前真之先生について書きたい。

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