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あらすじで読む『人材開発研究大全』〜第22章:越境学習〜

越境学習という言葉はビジネスの場面でも使われるようになっており、ビッグワードとして無批判に使われがちです。本章では、なぜ越境学習が求められ、どのような効果があるのかを丹念に説明されています。「そもそも論」を押さえられ、改めて越境学習の意義を考えさせられる内容となっています。

(1)越境学習のニーズはイノベーション論とキャリア論から説明できる
(2)社外学習は業務能力向上に繋がり組織コミットメントには影響なし
(3)明確な目的意識を持って越境学習することが重要

(1)越境学習のニーズはイノベーション論とキャリア論から説明できる

越境学習が求められる社会的背景には、①イノベーション論と②キャリア論の二つのものがあるとされています。①イノベーション論におけるニーズをまとめれば、組織内部での当たり前と思われる視点から外れ、従来のものの見方から離れるためのツールとして越境学習は位置付けられています。

②キャリア論から見たニーズは、所属する組織の枠組みを超えて社外に成長機会を探索する自律的なキャリア構築の機会と言えます。経験を通じて私たちは成長するため、成長する機会を社内に限定せず社外にも目を向けてみるというわけですね。

こうして、個人目線でのポジティヴな影響が述べられていますが、他方で企業にとってのメリットはどのようなものがあるのでしょうか。

(2)社外学習は業務能力向上に繋がり組織コミットメントには影響なし

組織外にキャリア構築の機会を求めることとして越境学習は位置付けられていますが、自社における業務能力の向上にも繋がることが指摘されています。詳細に述べますと、①社外・社内部門横断的な会のどちらにも参加したことがある群、②社外で開かれた会のみ参加したことがある群、③社内部門横断的な会のみ参加したことがある群、④参加したことがない群、に分けて能力向上、キャリア成熟、組織コミットメントの三つにどのような影響があるかを調査した先行研究が述べられています。

キャリア成熟にとって、①②が優位に高いのは想像の範疇でしょう。能力向上への影響という観点では、①が最も高く、②もほぼ①と同等で、③はほぼ④と同じレベルくらい低いという結果が出ています。つまり職務における能力向上という観点でも社外における学習経験は有効であるということですね。

さらに組織コミットメントへの影響にも注目が必要です。社外に出ることは、自組織へのコミットメントに負の影響を与えるという懸念が挙げられることが多いように思いますが、そうではないのです。①が最も高く③が差のある次点、その次が②で最後に④と続きます。つまり、社外に出ている人が組織に対して愛着を持っていない訳ではないということです。飛躍を恐れずに言えば、海外に行って自国の文化や良さに気づくということと近いのかもしれません。

(3)明確な目的意識を持って越境学習することが重要

さらに深掘りをして、どのような人物が越境学習によって効果が上がるのか、について本章では議論が進みます。端的に言えば、明確な目的意識を持って参加することが重要という点が強調されます。

参加すること自体が楽しかったり、参加する団体でできる知人・友人との関係を続けることもたしかにいいのでしょう。しかし、(2)で述べたような結果変数への影響という観点では、目的意識を持つことの重要性が指摘されていることに着目するべきでしょう。


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