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あらすじで読む『人材開発研究大全』〜第19章:管理職へのトランジション〜

第19章からは「第3部 管理職育成の人材開発」です。管理職の育成はいつの時代でも課題になりますが、現代の日本企業における課題とその処方箋のヒントについて見ていきます。

(1)管理職を取り巻く三つの変化と三つの処方箋
(2)管理職育成アプローチ①Experience
(3)管理職育成アプローチ②Exposure
(4)管理職育成アプローチ③Education

(1)管理職を取り巻く三つの変化と三つの処方箋

現代は管理職受難の時代とも言われます。その理由として、管理職を取り巻く三つの主要な変化があると指摘されています。一つめは組織のフラット化です。かつての日本企業の多くでは、実務担当者が管理職に昇格する前の係長や課長補佐といった役割で職務アサイン、評価・考課、育成を補佐的に行うことができ、これが管理職になるための準備として機能していました。加えて、フラット化によって部下の数は以前よりも増えます。つまり、準備不足にも関わらず昇格後の部下の数は増えるというように難易度が増しているわけです。

二つめは管理職のプレイヤー化です。産業能率大学によれば、従業員数100人以上の企業におけるプレイング・マネジャーの数は、2011年時点の調査から2013年の調査で8%も増加し、実に99.2%だそうです。実務担当者からマネジャーへのマインドセットの変容が求められるとともに、実務担当者としても成果を出すことが求められている現状が分かります。

三つめは職場の多様化・高齢化です。前者は多様なメンバーの多様な働き方に対応することが求められることを意味し、後者は「年上の部下」を生じさせ、両者ともに複雑な職場のマネジメントを促すことになります。

こうした状況における管理職育成の処方箋について、アメリカのリーダーシップ開発を専門とするNPOであるCCL(Center for Creative Leadership)が提唱し始めた70:20:10の法則として有名な三つの要素に分けて以下から見ていきましょう。

(2)管理職育成アプローチ①Experience

では管理職が成長するために有効な業務経験は何でしょうか。本章で紹介されている松尾(2013)の調査によれば、変革への参加経験・部門の連携経験・部下の育成経験が重要だとされています。

こうした業務経験を経れば自ずと育成されるわけではありません。業務経験を糧にできるかどうかは個人要因が影響しています。具体的には、上司との対話機会・過去の変革への参加経験・過去の部門を超えた連携経験・過去の部下育成経験・成果指向性・学習指向性を個人が持っていることの重要性が同調査で明らかにされているのです。

(3)管理職育成アプローチ②Exposure

Exposureの領域では二点が挙げられています。一つめはフィードバックです。代表的なものは360度フィードバックでしょう。フィードバックが有効に機能するためには、個人が学習志向性を有しているかという個人要因と、オープンで参加型の職場風土があるかという組織文化の要因とがあります。

二つめはコーチングです。コーチが質問によって促す対話により、クライアントが自身で内省し、目標と現状のギャップを埋めていく人財開発手法です。学習転移を促進するものとしても着目されています。

(4)管理職育成アプローチ③Education

本章では、二つのタイプのワークショップが紹介されています。一つめはマネジメントプレビューワークショップと呼ばれる、昇格前の時点で管理職としての役割期待や業務を実感的にイメージできるものです。

二つめはマネジメントフォローアップワークショップで、管理職として着任してから半年から一年が経過した後に、自身の管理職としての業務経験を振り返り、他の新任管理職とともに共有するものです。

管理職登用前に、いわばワクチンを接種することで管理職としてのリアリティに直面する際のショックを軽減し、昇格後に冷静に内省して管理職としての成長実感と課題の認識をフォローするというアプローチが重要である、と考えると良いでしょう。


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