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あらすじで読む『人材開発研究大全』〜第14章:新人研修〜

新人研修を理論的に捉えてみるというのは、実務家からすると新鮮で面白い試みです。本章では、新人研修を「新しく組織に参加してきた新人を自社の社員らしくするために組織から働きかけること」と定義し、組織の社会化戦術であるとしています。新入社員が企業に馴染んで働きやすくすることを支援すると捉えれば、組織社会化と強く関連することはお分かりいただけるでしょう。

組織の社会化戦術であれば、組織の状況や特性に合わせることで新人研修の内容が異なることは容易に想像できるでしょう。その上で、新人研修をデザインする上でのポイントとなる考え方を三つ指摘しています。

(1)組織のトップと人事部の育成観を統一させる
(2)現場と人事部とで協調的に教育する
(3)新入社員が組織的愛情を感じられるようにする

(1)組織のトップと人事部の育成観を統一させる

トップとアラインすることが重要なのは当たり前でしょう。しかしながら、ここでの「組織の」という点が人事部門を悩ませる曲者です。なぜなら「組織のトップ」は複数存在するからです。

企業のトップの方針を踏まえた人事部門のトップの考えを前提とした上で、各事業部門のトップの考えをすり合わせることは至難のわざです。特にカンパニー制を敷いている場合には、どこまでグループで統一させるかも議論のポイントとなるでしょう。

本社人事と部門人事があるのであれば、本社人事が経営トップおよび人事部門のトップの意向を重視し、部門人事が各部門のトップの意向を主張することで両者が建設的に議論するべきでしょう。(やや正論ではありますが)

(2)現場と人事部とで協調的に教育する

本社人事と部門人事とで育成観を揃えて新人研修をデザインした後に必要なことが、新人研修期間と現場配属後の橋渡しです。部門人事は、本社人事が行なっている新人研修の内容を理解し、研修中に気になった点や留意点を本社人事から引き継ぐことが重要でしょう。

新入社員にとって新人研修の終了は、社会人としてのキャリアのはじまりの一歩にすぎません。部門人事は、新人研修期間中の新入社員の情報を共有しながら、業務アサインメントやメンターなどの部門の受け入れ状況について配属部門のマネジャーや部門トップと事前に話し合うことが重要です。配属後も、節目の時期に新入社員の状況を把握する機会を設け、場合によっては部門での教育に介入することも求められるでしょう。

(3)新入社員が組織的愛情を感じられるようにする

本書のような学術書で「愛情」という言葉が出てくるのも面白いものですね。違った観点から述べれば、それほど大事な概念であるということなのでしょう。

誤解したくないのは、新入社員をお客様のように優しく扱えば良いということではないという点です。むしろ、新入社員の成長を願って時には厳しいフィードバックも厭わないという覚悟を持つことが大事です。その前提として、新入社員が会社からの愛情を感じられるよう、信頼関係を構築することが必要でしょう。

また、第12章で学んだように、新入社員に対する指導員の要件として組織コミットメントの高さが求められることも、新入社員が組織的愛情を感じる条件として符合するのではないでしょうか。


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