見出し画像

【論文レビュー】組織社会化をより促すのは組織の関与?個人の行動?:小川(2012)

組織社会化とは、超意訳すると「新しく入った組織に馴染むこと」です。調査の関係でこの概念を扱う論文をよく読んでいるのですが、今回は小川先生の以下の論文を読みました。

小川憲彦. (2012). 組織社会化戦術とプロアクティブ行動の相対的影響力―入社 1 年目従業員の縦断的データからドミナンス分析を用いて―. イノベーションマネジメント研究センターワーキング・ペーパー, 121, 1-40.

ブログのタイトルはややキャッチーにしましたが、まず押さえておくべきことは、組織社会化は、組織だけが行うものでもなければ、個人の努力だけで為されるものではありません。個人が他者・組織と相互作用することで為されるものと捉えることが現在の組織社会化研究の知見です。この辺りの議論は福本先生の博論をご参照ください。

組織社会化は組織と個人の相互作用によって為されるという前提に立った上で、組織による施策(組織社会化戦術)と個人の行動(プロアクティブ行動)のどちらがより効くのかというのが本論文のテーマです。前者については、Van Maanen & Schein (1979)を扱った際に詳述したので割愛します。

後者のプロアクティブ行動とは、「組織内の役割を引き受けるのに必要な社会的知識や技術を獲得しようとする個人の主体的な行動全般」(4頁)と定義されています。ここでの「組織内の役割を引き受ける」というニュアンスからすると、ジョブ・クラフティングとはどうやら類別した方がしっくりと概念の棲み分けはできそうだなと感じます。

では、タイトルの問いに戻ると、組織と個人とについて何が言えるのか。結論としては、組織による働きかけがより有効であるとしながらも、個人の組織社会化の領域によっては個人の主体的働きかけ(プロアクティブ行動)が有効であることが示唆されています。つまり、職場の環境や組織社会化の内容に応じて変える必要があるのです。

たとえば、新入社員を支援する環境が整っていない職場では、飲み会などの社交場面で自発的に新入社員の側から関係構築することが業務の習熟にポジティヴに影響します。反対に、支援環境が整っている職場の場合、飲み会に自発的に参加して関係構築しても、あまり学習効果はなく、単なるストレス解消の場になりかねません。(別に悪いことではありません、念のため。)

本論文は、自分自身の研究で用いる概念を腑分けする上で大変参考になるものでした。そのため、やたらと直近に読んだ論文のまとめを引用してしまいましたが、思考を整理できる論文というものはありがたいものです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?