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あらすじで読む『人材開発研究大全』〜第8章:入社後の初期キャリアに対する就職活動の影響〜

就職活動が初期キャリアにどのような影響を与えるのか。
第8章のテーマとなっているこの問いは、人事部における採用課と教育課との隙間にこぼれ落ちがちな領域に焦点を当てます。人事にとっては耳の痛い、新入社員にとっては真摯な内容です。

先行研究レビューでは、俗に「石の上にも三年」と言われる説を検証し、最初の三年間の経験がその後の収入や能力向上に影響を与えることを見ています。そのうえで、数年は同一組織において職務経験を積むことが新入社員のキャリア形成にとって必要であるという前提で論旨が展開されます。

ポイントだけ思いっきり要約すると以下の通りです。

(1)第一希望への入社よりも就職活動を通じた変化の方が、入社後の能力発揮に繋がる。
(2)就職活動を通じた変化は仕事への自信にもポジティヴな影響を与える。
(3)人事部門への示唆

(1)第一希望への入社よりも就職活動を通じた変化の方が、入社後の能力発揮に繋がる。

では、学生は、就職活動を行うことで何を得ることができるのでしょうか。本章では、就職活動を通じた変化に着目しています。そのうえで、就職活動が初任配属職場についての認知や入社後のキャリア形成にどのような関連があるのかを調査されています。

最も興味深いのは、第一希望への入社よりも就職活動を通じた変化の方が、入社後の能力向上に必要な可能性が高いという結論です。

採用面接では、「弊社の志望優先順位はいかがですか」という面接官の問いに、「はい、第一志望です」と学生が答えるという紋切り型の応答が今でも行われているのでしょう。換言すれば、それほど学生側の積極性や熱意の代理指標として「第一志望への入社」を企業側は重視してきたわけです。

本章での調査では、「第一志望への入社」は、入社3~5年後における「満足・定着意思」にはポジティヴな影響を与えていることが見て取れます。しかしながら、これは結果的に相関関係があるという関連性のようです。

(2)就職活動を通じた変化は仕事への自信にもポジティヴな影響を与える。

他方で、「就職活動を通じた変化」は、自身の能力開発、上司からの支援、職場での協働といった日々の行動にポジティヴな影響を与え、それらを通じて「満足・定着意思」とともに「仕事への自信」に影響を与えています。つまり、「就職活動を通じた変化」は、入社後の能力開発行動とマインドセットに影響を与え、結果として入社3~5年後の職場への満足感とともに自身の職務への自信に繋がっているのです。

ここで着目したいのは、新入社員が自分自身で能力開発を行うという側面に加えて、職場での多様なメンバーとの関係構築行動を通じて仕事への自信を涵養している点です。就職活動では、複数の企業を受けることで、多様な面接官から多様なフィードバックを受けます。すべてのフィードバックが有効なものであるとは思えませんし、中には不適切なものも残念ながらあるでしょう。

しかし、理不尽な内容も含めて玉石混交のフィードバックをもらうことは、現実の職場にも近しいものがあるのではないでしょうか。多様なフィードバックを一旦は受容し、自分の中で咀嚼して、必要な場合には自身の言動を変えてみること。このように考えれば、就職活動において自身を変化させた経験が、初期キャリアにおける成長と仕事への自信に繋がることも納得的ではないでしょうか。

(3)人事部門への示唆

就職活動を通じてどのように変化していても、それを学生が自ずと認識できるとは限りません。むしろ、就職活動が終わったら残りの学生生活を満喫することに勤しみ、就職活動自体を振り返ることの方が稀なのではないでしょうか。

では、就職活動という企業との(ほぼ)最初の接点である貴重な経験をどのように振り返るのか。学校でも振り返りを促すプログラムはあるかもしれません。しかし、貴重な人財を採用する企業側も積極的に支援をするべきでしょう。

内定者フォローにおいて、ビジネス知識のインプットの提供や、「合宿」や「懇親会」と称したリテンション施策も結構ですが、ハイポテンシャルな人財の将来的な成長への投資も必要です。就職活動を振り返り、そのプロセスで得た経験の意味づくりを支援することも有効なのではないでしょうか。


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