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あらすじで読む『人材開発研究大全』〜第13章:研修転移〜

企業の人財開発部門を悩ませるテーマは、教育・研修の効果です。人事部門に対しても投資対効果が経営から問われる中、研修の効果をどのように測定するべきなのでしょうか。

本章では、研修転移という概念を基にしながら、人財開発部門にとっての存在意義でもある問いを探究していきます。ポイントを概説すると以下の三点に集約できそうです。

(1)現場で活きる研修デザインには【運ぶ】と【類似度】が大事
(2)研修後の行動・成果への定着が課題になる中で研修転移に注目
(3)研修前・研修中・研修後のしかけで研修転移を促進

(1)現場で活きる研修デザインには【運ぶ】と【類似度】が大事

まず定義から見ていきましょう。研修転移とは、「研修の現場で学んだことが、仕事の現場で一般化され役立てられ、かつその効果が持続されること。」と定義されています。研修の場面だけで受講者の理解を促すだけではなく、それを現場での業務において応用可能な状態が中長期に渡って定着できるということが求められるということでしょう。

そのための研修デザインのポイントが【運ぶ】(Transport)と【類似度】(Degree of Similarity)です。【運ぶ】とは、研修現場で学習した内容を、業務の現場に適用することです。その際に【類似度】が高い(「近転移」と言います)と現場での適用がしやすいため、いかに【類似度】を高めるかが重要になります。

(2)研修後の行動・成果への定着が課題になる中で研修転移に注目

研修の効果測定において最も有名で今でも活用されているものはカークパトリックの4段階モデルです。同モデルを嚆矢とする研修評価研究の流れが本章でも説明されています。

研修における満足度が反応で、理解度に対応するものが学習です。多くの研修を受けると満足度と理解度を測定することは、カークパトリックの最初の二つの段階に対応しています。

しかしながら、反応と学習が高かったとしても、受講者の行動やビジネス成果に繋がらないことが課題となりました。そのために、求められるビジネス成果から教育・研修をKPIの一つとして設定し、逆算式に投資対効果を高めようとしたのが「ROIの時代」です。

ROIに着目しすぎると、定量的に測れるものを測定し、本来必要な行動変容に繋がらない事態が生じるようになりました。そこで、カークパトリックの4段階モデルを再整理し、改めて行動が着目され、研修転移が脚光を浴びるようになったということでしょう。

(3)研修前・研修中・研修後のしかけで研修転移を促進

では、研修転移をどのように促進するのでしょうか。本章のモデル図と近しいものが『研修開発入門「研修転移」の理論と実践』に詳しいのでそちらを基に解説します。

【研修】【職場】【受講者】という三つの観点について、研修前・研修中・研修後というそれぞれのステップごとのポイントを見ていきましょう。

【研修】
現場で活きる内容にするためには、事前の段階で、職務に求められる能力・行動面でのニーズを把握し、研修設計することが重要です。研修中には、研修が終わるタイミングで受講者が「職場に帰ったら実践できそう」という気持ちになるよう、双方向・学習参加型の研修によって現場に送り出すことが求められます。研修後には、時間の経過によって受講者が忘れないよう地道なリマインドが必要です。

【職場】
受講者が安心してまた動機付けられて研修に臨むためには職場の支援が不可欠です。そこで、マネジャーを事前オリエンテーションに参加してもらうなどの巻き込みが有効です。また、研修中に部屋から抜け出さなくて良いように、周囲の同僚に協力要請をしておくことも、地味なロジスティクスですが重要です。研修後に受講者の行動変容が定着できるよう、周囲からの支援を得られるよう受講者から周囲に研修内容を発表する機会を提供するのが良いでしょう。

【受講者】
研修中の受講者の理解度を高めるためには事前のインプット、最近の流行りの概念で言えば反転学習が有効でしょう。事前学習によって学習意欲が高める工夫をした上で、受講者個人が「研修で学んだことを現場で実践しよう」とする意欲や意志を喚起できるような自己効力感を高めて研修を終えるようにデザインすることが求められます。その上で、研修の最後に立案する実践目標の達成に向けて電話コーチやピアフィードバックで支援し続けることが重要です。


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