あらすじで読む『人材開発研究大全』〜第17章:経営理念と人材開発〜
理念経営という同じ言葉を用いても、『ビジョナリーカンパニー』が日本で流行した2000年前後と、現代(2020年)とではその意味する内容や射程範囲が異なるようです。
前者では価値観の注入を目指した理念浸透であるのに対して、後者は組織と個人の価値観の共有を目指す理念分有と言えます。画一的な人財によるモノカルチャー組織から、多様な人財・多様な価値観によるダイバーシティ開発を目指す組織へと変容する中で、理念経営のあり方も変化しているのです。
では経営理念を共有することによる人財開発への効果にはどのようなものがあるのでしょうか。本章では主に以下の四点が提示されています。
(1)職場活性化や職場内の人財開発に繋がる
(2)社員のキャリア開発が促進される
(3)経営理念の内面化と個人のアイデンティティ発達が相互に関係する
(4)リーダーシップ開発の契機になる
(1)職場活性化や職場内の人財開発に繋がる
具体的には、組織市民行動、文脈的パフォーマンス、革新指向性等に正の影響を及ぼすと指摘されています。直接的に社員を対象とした人財開発にインパクトがあるというよりも、学習する職場づくりに影響があると言えるでしょう。
(2)社員のキャリア開発が促進される
企業理念とは、将来に向かって企業として大事にし続ける価値観を表現したものと言えます。過去における自身の言動が理念に合致していたかを内省し、今後のチャレンジを理念に則って行う、というプロセスで表現できるでしょう。
このように、過去を回顧して将来を展望するという意味で捉えればキャリア開発と全く同じです。したがって、理念経営を行うことが、社員にとってキャリア開発を促進することに繋がると考えると分かりやすいのではないでしょうか。
(3)経営理念の内面化と個人のアイデンティティ発達が相互に関係する
相互的関係性とはお互いに関係し合うということです。経営理念を内面化することによって、社員は自身のアイデンティティの再確立になると指摘されています。他方で、個人のアイデンティティ発達が進むことによって経営理念の内面化が深まる可能性もあるようです。
こうして、経営理念の内面化と個人のアイデンティティ発達は相互的関係性があるとされています。
(4)リーダーシップ開発の契機になる
理念に則った行動を取ろうとすることが、結果的に革新的行動を招くことが指摘されています。その上で、そうした行動に他者を巻き込もうとすることによってリーダーシップ開発の契機になるのです。
理念によって自分自身の意志を明確に持ち、自身だけではできない夢に向かって部門を超えて多様なメンバーに意思表示し巻き込んでいくというプロセスは、そのままリーダーシップの発揮と言えるでしょう。
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