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研修転移の先行研究(2):Gegenfurtner et al. (2009)論文レビュー

今回はレビュー論文を扱います。ある事象を研究し始める時に役立つのはレビュー論文です。先行研究をまとめている、ガイドとしての論文と捉えていただければ相違ないでしょう。研修転移のレビュー論文と言えるGegenfurtner et al. (2009)* を読んでみました。

*Gegenfurtner et al. (2009). Motivation to Transfer Training: An Integrative Literature Review. Human Resource Review Vol. 8, No. 3 September 2009

研修転移の領域の中で本論文が焦点を当てているのは、研修を受けた後に実務の中で活かそうとする意欲についてです。研修を受ける個人・研修自体・個人を取り巻く組織という三つの要因について、研修前および研修中・後という時系列に分け、それらが研修転移させようという意欲を媒介して研修転移という結果に結びつくというのが全体の構造です。論文内に掲載されている下図をご覧いただければ全体像を把握しやすいでしょう。

私自身の現在の研究上の興味・関心は個人にあるので、(1)研修前の個人(5)研修後の個人の二つに焦点を当ててポイントを記してみます。

(1)研修前の個人

まず興味を持ったのは、研修前における学習意欲と研修後の転移意欲との相関係数の高さです。以下に引用しているように、0.33から0.75という高い相関関係にあることが読み取れます。上に引用した図に従えば、研修後における転移意欲が研修転移へと関連するわけですから、研修前における学習意欲の高さがいかに大事であるか、お分かりいただけるのではないでしょうか。

Research evidence makes it safe to conclude that pretraining motivation to learn predicts posttraining motivation to transfer: Correlation coefficients range between .33 and .75

人財開発部門に対する実践的含意を少しだけ述べます。人財開発の企画担当者は、ともすると素晴らしい研修を用意すれば受講者の学習が促進されると考えます。この考え方は正しいのかもしれませんが、それは、事前に受講者が意欲が高いことが前提になります。つまり、人財開発の企画担当者は、事前に研修への参加意欲を高める取り組みをする必要があるのではないでしょうか。

(5)研修後の個人

ここでのキーワードは自己効力感です。研修で学んだ実感をいかに持って職場に帰ってもらうかが鍵となります。

Back at work, individual factors in response to the training program determine if and how trainees are motivated to initiate and to execute transfer actions.  

職場で使えそう、使える自信があると感じられるかどうかは期待理論で説明できるようです。期待理論という言葉を見ると、モティベーション論の文脈でブルームやポーター=ローラーが思い起こされるのですが、ここでは研修転移に対する意欲に関するものです。ただその観点は、大雑把に言ってしまえばモティベーション論における期待理論のそれと近いようで、二つに分かれて解説されています。

一つ目は転移しようと努力することが行動変容へと至る期待です。職場で実践してみようとしてもなかなかできないと行動が変容するまでには至りません。次に二つ目としては、行動変容が職務上で求められる結果に結びつくという期待です。つまり、行動を望ましいものに変えても、それが評価されなそうであれば定着しづらいということでしょう。

ここでも実践的含意を少々。研修が終わる際には、慌ただしくラップアップを行って職場での実践にまで至らないことがありがちです。また、実践計画を立ててもそれが絵に描いた餅に終わることも「あるある」でしょう。しかし、企画担当者としては、職場での実践に向けて、転移欲求→行動変容→結果達成という道筋をガイドするところまで視野に入れたいものです。自戒の念を込めて。

【今週の一冊】
加島祥造『求めない』(小学館、2007年)

老子を基にシンプルできれいな文章として編まれた一冊。すぐに読めますが、すぐに読みきるのはもったいないような心持ちがします。多忙な毎日の中でも心を落ち着けられる贅沢な本です。


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