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「わかりあえなさ」を前提にして関係性を築く!?〜ナラティヴ・アプローチについて〜

立教LDCでの学びログ_2020.06.28

私たちは、あの組織は○○だとか、この組織は素晴らしいなどと組織に実態があるかのように語ります。組織は、意志を持った人の集まりで構成されます。しかし、組織自体に意志があるのかどうかと言われると、アナロジーでは「組織の意向で」などと言いますが、よくわからなくなります。

宇田川先生は『他者と働く』の中で、組織とは、組織における人と人との関係性そのものである、と喝破します。

関係性は、組織の中で働いていれば、他者との間での相互作用によって自然に生じます。組織によって規定される業務を遂行すれば、肩書きや役割範囲によって関係性がいつの間にか形成されます。しかし、意図的に既存の関係性を崩すことも可能だと著者はしています。その手段の一つが対話であり、対話とは「新しい関係性を構築すること」(16頁)です。

対話の関係性構築というプロセスに焦点を当てた表現が示唆的なので、そのまま引用してみます。

対話とは、権限や立場と関係なく誰にでも、自分の中に自分を見出すこと、相手の中に自分を見出すことで、双方向にお互いを受け入れ合っていくことを意味します。(22頁)※太字強調は筆者

この定義を読みますと、軽々しく「今日のワークショップでは対話を行ってもらいます!」などと言いづらくなるような荘厳な響きがあります。対話には重大な意味があることを改めて確認するとともに、それを促すファシリテーターには抑制の利いた謙虚な態度が求められると考えるべきでしょう。

対話の中で私たちは、何を受け入れ合うのでしょうか。ここでナラティヴ・アプローチという考え方が登場します。

ナラティヴ(narrative)とは物語であり、その語りを生み出す「解釈の枠組み」のこと(32頁)です。人はそれぞれ独自のナラティヴを持つ主体であり、他者との間には、少なからずお互いのナラティヴを理解し合えないというが生じます。

他者と私とは異なる存在ですから、溝が生じることはしかたがないことなのでしょう。しかし、その溝に自覚的であるかどうかが鍵となるのではないでしょうか。他者と協働するという文脈で捉えれば、「他者との関係性の間に生じたナラティヴの溝に向き合うことで、人や組織を動かすことができる」(34頁)とも言えるのです。

ではどのようにして対話によって他者と自身とのナラティヴの溝に橋を架けることができるのでしょうか。著者は、ハイフェッツが『最前線のリーダーシップ』等で提示した「観察ー解釈ー介入」を基にしながら、その前提に準備段階を設けた四ステップを提唱し、事例を基に解説されています。

1.準備「溝に気づく」
2.観察「溝の向こうを眺める」
3.解釈「溝を渡り橋を設計する」
4.介入「溝に橋を架ける」

四ステップは1から4へとまっすぐに進むものとは限りません。むしろ、行きつ戻りつしながら進んでいくのが自然なプロセスと言えるでしょう。自分自身のナラティヴと、他者のナラティヴとに自覚的になり、その溝を認めた上で、どのように他者の側から眺めてみて橋を架けるのか、が鍵となるのです。


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