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【オンライン読書会】『組織開発の探究』哲学的基盤(3)フロイト

『組織開発の探究』のオンライン読書会の振り返りも今回で最終回です。おさらいしますと、同書の第三章では組織開発の哲学的基盤を為す哲学者として三名が取り上げられています。最初に挙げられているのはデューイ。彼は、経験を振り返ることの重要性を指摘しました。

では振り返る際には何に焦点を当てればいいのでしょうか。自然科学を偏重し客観性を重視しすぎる風潮に警鐘を鳴らし、「今ーここ」に焦点を当てて人の主観性に重きを置いたのがフッサールです。

経験を振り返り、「今ーここ」から立ち現れる意味を大事にするということが、デューイおよびフッサールを結びつけたここまでの意味合いです。そして今回取り上げる組織開発の理論的基盤となっている哲学者の三人目はフロイトです。

精神分析学の創始者であり、エディプス・コンプレクスや夢判断という言葉はお聞きになった方も多いでしょう。結論を先んじていえば、表面化していない意識の背景にある前意識や無意識を顕在化させて、それらを含めた経験全体を振り返り、「今ーここ」に立ち現れるものを意味づけする、という関係性でしょう。

少し先走り過ぎましたので、順を追って説明します。フロイトは、病理(精神疾患)は、私たちの無意識にある抑圧から生まれると考えました。その治療のためには、無意識にある抑圧を顕在化する必要があります。その顕在化のプロセスとしてフロイトが重視したのが対話です。

患者がリラックスした状態で患者と対話するために、患者の視界に入らないように自分自身は椅子に腰掛けて対話している有名な構図を表す絵が本書にも出ています。

フロイトは「無意識」の領域の広さについて後世において次のような名言を残したとされています。

実に7分の1が顕在化しているだけで、残りの7分の6は無意識下にあるというのですね。となると、精神疾患として外に現れるものだけに焦点を当ててもあまり意味はありません。そこで、その下に隠れている無意識下のものを顕在化することに精神分析は注力するのです。

ここまではフロイトが精神分析学で個人を対象にして扱ったものです。精神分析における個人の病理を、組織における病理として考えると組織開発にも精神分析に適用可能と中原先生は次の図で説明します。

端的に言えば、個人もグループも似たような構造であるとされています。個人における目に見えない無意識のものが多いのと同様に、グループにおける不都合な真実もそのほとんどが隠れているというわけですね。

ではどのようにしてグループにおける無意識に焦点を当てることができるのでしょうか。そのアプローチの考え方が、第2章で提示されている三つのプロセスです。

フロイトが精神疾患の患者に対して取り組んだのと同様に、リラックスした環境でいかに顕在化するかが鍵になるということでしょうか。言い方を変えれば、リラックスした環境(安心・安全な場)が組織開発の現場で求められるのは、フロイトの考え方が下敷きになっている部分があるということです。

見える化するためのフロイトの一つの手法が夢解釈です。集団におけるアプローチを考えるためにも、個人に対するアプローチである夢解釈について、少し脱線しますが見てみましょう。

フロイト系の精神分析学者として著名な小此木啓吾さん(故人)の『フロイト思想のキーワード』をもとに、フロイトとユングにおける夢解釈の相違をまとめてみます。

フロイト派の夢解釈は、顕在夢の内容を要素に分析し、その要素から連想されるものをもとに再構成を行なって意味を解読するというアプローチを取ります。要素還元後に物語化するということですね。

他方、ユング派では要素分析を行わず、むしろ全体的なイメージを大事にします。いわばゲシュタルト的に夢をそのまま捉え、物語や神話といったアナロジーをもとに解釈するということでしょう。

両派の相違を踏まえて、グループの無意識に焦点を当てる組織開発の活動に活かしていきたいものですね。

【まとめ】

三週間に渡ってデューイ、フッサール、フロイトという三人の哲学者の考え方を見てきました。中原先生が簡潔にまとめてくれている内容を提示します。

さらにありがたいことに、それぞれをワンセンテンスで要約してくれています。

プロセスとしてはフロイト、フッサール、デューイという順番で組織開発のを進めるということになるようです。

まず、組織における無意識を対話によって明らかにします。その上で顕在化したものをありのままで現在の事象として捉えて共有します。こうしたプロセス自体を経験として振り返ることを通じて組織において共有する、というステップです。

ここでまとめたプロセスは組織開発ではよく知られたプロセスと言えるでしょう。しかし大事なのは、それぞれの背景に哲学的基盤を意識しながら取り組むということなのではないでしょうか。


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