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【読書メモ】『みるみる味方が増える たった1つの法則』(高嶋成豪、スローウォーター、2019年)

本書では働く上での人と人との関係性に焦点が当てられます。まず前提として、現代のビジネスシーンでは人間関係の構築と維持が難しくなっていると指摘されます。その要因の一つとして、業務のプロジェクト化が進んでいることが挙げられます。

仕組み化された業務であれば組織のマネジメント構造に基づいた仕事の進め方が適しているでしょう。しかし、プロジェクト単位での業務であれば、通常の静的なマネジメント体制だけに基づいた対応は難しくなっています。

というのも業務がプロジェクト化すると、社内でも部門をまたいでメンバーが参加したり社外にも多様なステイクホルダーが生じます。プロジェクトを推進するためのメンバーが多様化し、さらにプロジェクトのフェーズが進むと変化します。

多様で変化するプロジェクトをすすめるためには、職制に基づくマネジメントでは十分ではありません。他者やチームに対する影響力が求められ、本書における影響力の定義として「権限や権威に頼らなくても、人を動かせる力」となっていることも納得的です。

では影響力を発揮するには何が必要なのでしょうか。そのポイントとして、カレンシー(価値)の交換というメカニズムが指摘されています。カレンシーとは通貨とも訳されるように、交換することで価値を融通するものです。

交換が成り立つのは、社会心理学で言われるレシプロシティ(返報性)という社会通念があるからです。端的に言えば、相手から何かをしてもらったら、それと見合うような何かを返さなければ自分の気持ちがおさまらないという性質に基づくものと言えるでしょう。

このカレンシーの交換のポイントとして、本書では以下の四点が指摘されています。

(1)交換される価値は、だいたい同じくらい。
(2)カレンシーの価値は、受け手が決める。
(3)「ポジティブなカレンシー」だけでなく「ネガティブなカレンシー」も交換される。
(4)カレンシーの交換は「蓄積」される。

(1)は、通貨というアナロジーで考えればイメージしやすいでしょう。お互いに同等程度であるとみなせるものでなければ、お互いに居心地が悪くなります。自分の提供するものが多すぎると思えば相手に対して不満を抱くでしょうし、反対に少なすぎると思う場面では相手に申し訳ないと感じてしまいます。いずれもその後の交換には繋がることが難しい状況です。

(2)については、通常の通貨と心理的な通貨との違いとを意識する必要があるでしょう。客観的に価値は決まっておらず、相手にとって刺さるかどうかが肝となるわけです。したがって、目の前の人の「今の心の的」に焦点を当てるという著者の指摘を充分に考える必要があるでしょう。

(3)「ネガティブなカレンシー」とは仕返しとか復讐のようなものを思い浮かべれば良いでしょう。少し前に流行ったドラマで言えば「倍返し」です。しっぺ返しという言葉があるように、ネガティブな内容も交換されるということは肝に銘じたいものですね。

カレンシーの交換は一回で終わるものではありません。人と人との関係性が短期間で終わるわけではないことを考えれば、(4)で指摘されているように中長期的な蓄積を考える必要があります。これは、大きな恩恵を受けて相手に返せないと思ったとしても、長い年月をかけて返すことができるという意味では現実的かつ建設的なアドバイスと言えるでしょう。


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