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ロックでファンキーな組織社会化論文!:福本(2019)論文レビュー

組織社会化についてある程度は理解していたつもりだったのですが、本論文を読み、理解が足りていなかったなぁと痛感させられました。これだから、先行研究は面白いとも言えますし、ツライと言えばツライ。笑

福本俊樹(2019)「処方的知識の開発を主軸とした組織社会化研究の新展開」神戸大学大学院経営学研究科博士論文

著者は、既存の組織社会化研究をバッサバッサと斬りまくり、それらに依拠していた私の研究のフレームワークも再考が必要となったのですが、ここまで斬られるともはや爽快な感じすらします。以下では、本論文の何がスゴイのかを記してみます。

組織社会化は組織と個人を二項対立で捉えていない

私の理解では、組織における価値・規範・文化などを個人は内面化するという組織から個人への矢印と、個人の主体性に基づくプロアクティヴな行動によって個人から組織へ向かう矢印の二つが、組織社会化の意味合いでした。つまり、どちらの矢印であっても、組織が大事にするものを個人は学習するというイメージで捉えていました。

しかし著者は、こうした私のような捉え方の前提に潜む考え方に疑義を呈しています。大事な点なのでそのまま引用します。

組織社会化研究において自明の前提ともなっている、「組織主体のアプローチー個人主体のアプローチ」や「組織社会化ー個人社会化」といった図式、その大元でもある「組織(構造)ー個人(主体)」の二項対立的把握に対して、根本的な再考を加える必要があるだろう。(30頁)

つまり、組織の考えを受け入れるという捉え方も、それを補足するために個人の主体性に重きを置いて個人による働きかけという主体的個人という考え方も、組織と個人を二項対立的に考えてしまっているよね?ということです。

相互作用論が組織社会化研究の基盤

その上で、組織社会化研究の嚆矢となっているVan Maanen and Schein(1979)に基づいて、そもそもVan MaanenもScheinも働く個人が組織の考え方を内面化することを述べていない、と指摘しています。

ここで完全に頭をガツンとやられました。著者は再三に渡って、Van Maanen and Schein(1979)に立ち返ろうというメッセージを発しています。スミマセン、その通りです、読み直します(笑)。

以下では、端的にポイントだけ述べます。Van MaanenとScheinは、個人による組織の考え方の内面化ではなく、組織における他者との相互行為によって生じる意味生成が大事であり、相互作用論が組織社会化の基盤である、と主張しています。この辺りは、私が好んで読んできたブルーマー(シンボリック相互作用論)やストラウス(グラウンデッド・セオリー・アプローチ)といったシカゴ学派の社会学が思想的ベースになるので、汗顔の至りです。

実践志向の経営学

さらに反省させられたのは、実践志向という観点で見た場合、主体的個人というアプローチを取ってしまうと、企業や組織が入社後の個人に対して何をすれば良いのかという示唆出しができないという点です。

新人研修、OJT、メンターといった施策を検討するためには、企業という組織における新規入社社員と既存社員との相互作用を考える必要があります。言い換えれば、新規入社社員の主体的アプローチを前提に捉えてしまうと、企業がとりえるアクションは少なくなります。

このように考えると、組織社会化研究のあるべき方向性として、相互作用論をベースにしたアプローチが現場実務にとっても有効と言えそうです。実際、本論文では、らでぃっしゅぼーや(現オイシックス・ラ・大地株式会社)と月桂冠における、採用から新入社員研修までのケースが詳細に記述されているのでぜひ読んでみてください。

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