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MEMORIA メモリア

アピチャッポン・ウィーラセタクン監督待望の新作が公開された。
美術家としての活動はあったものの、長編映画の監督としての新作が途絶えていたので久々の新作が公開されるのは映画ファンとしては嬉しいの一言に尽きる。

そして、その新作が母国タイではなく、コロンビアを舞台に英国人女優ティルダ・スウィントンを主演に迎えた多国籍映画となっていることにも驚いた。どうやら、長編映画から引退した状態になっていたのも、久々の新作がアカデミー国際長編映画賞にコロンビア代表として出品されるような事実上のアジア映画ではなく洋画となっているのも、どうやら、母国タイの政治に対する不満からタイで映画を撮れるような気分にはならないというのが理由だったらしい。

アピチャッポン監督を一躍有名にしたのはカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した「ブンミおじさんの森」だが、本作も同映画祭審査員賞を受賞しているので、力は衰えていないということなのだろう。

ただ、個人的にはどこか日本と通じるものがあるというか、アジアに共通する概念のようなものがアピチャッポン作品にはあると思っていたので、アジアでない地域を舞台に、アジア人でない俳優を迎えて撮影した作品ということで不安があつたのも事実だ。

でも、実際に本作を見てみると、誰かどう見てもアピチャッポン作品だった。

淡々とした場面、しかも、ヒキの画で長回しが続くのは、正直言って、ドライアイの者にはつらいけれどね。

淡々とした日常描写の中に、ホラー的、ファンタジー的要素が織り込まれているのは、まさにアピチャッポン節という感じだしね。

しかも、思わずクスッと笑ってしまう場面や呆気にとられてしまう場面があるのも、いかにも、アピチャッポン作品という感じだ。

そして、舞台はコロンビア、主演は英国人なのに、スクリーンに映し出されているのがアジア映画らしい映像であることにも感心した。タイ、もしくは、中国や日本で撮影したと言っても通じる画だと思う。

アジアの映画監督(アン・リーのような米国が活動拠点の人は除く)がアジア以外の国でアジア人以外を主演に作品を撮ると、“本当に、あの○○が撮ったのか?”と思うような出来になることが多い。
是枝裕和がフランスで作った「真実」とか、ツイ・ハークが米国で作ったジャン=クロード・ヴァン・ダム主演作品なんて、本来の実力を発揮できているとは到底思えない出来だった。
アジアの映画監督で、アジア以外で撮った作品でも、本来の作風をキープできていたのって、ジョン・ウーとか、ごく限られた人しかいないのではないかと思う。
それだけ、アピチャッポン監督というのは確固たる作風を持った監督だということなんだろうね。

それにしても、そこそこ長いエンド・クレジットなのに、BGMが雷雨の音だけってのはすごいな。というか、全体的に効果音の使い方がすごい。
まぁ、主人公が時々耳にする謎の音の正体を探るという内容だから、音にこだわるのは当然なんだけれどね。

それから、虫の鳴き声とか、川のせせらぎといった自然音の活かし方はアジアっぽいと思った。欧米の監督にはあまりない発想だよね。

そして思う。日本映画だと、こうしたアート系・ミニシアター系の映画って、音響効果にまで予算が回らないから音がショぼいことが多いけれど、海外ではこうした作品でも、きちんと音に金をかけられるんだよね。だから、結構、音に迫力があった。音響設備が完璧とは言えないミニシアターでこれだけの音響効果を味わえたのだから、それは音関係の予算と時間をしっかり取っている証拠だよね。

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とりあえず、今回のアピチャッポン監督作品も、(細かいことは)考えずに、(雰囲気を)感じる映画だった。

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