見出し画像

ぼくらのよあけ

以下に記すのは今年劇場公開された国産の劇場用長編オリジナルアニメ映画のうち、自分が鑑賞した作品の一覧だ。

「鹿の王 ユナと約束の旅」
「グッバイ、ドン・グリーズ!」
「劇場版 DEEMO サクラノオト-あなたの奏でた音が、今も響く-」
「ブルーサーマル」
「バブル」
「犬王」
「劇場版 IDOL舞SHOW」
「夏へのトンネル、さよならの出口」
「雨を告げる漂流団地」
「僕が愛したすべての君へ」
「君を愛したひとりの僕へ」

レギュレーションはこんな感じだ。

注:日本アカデミー賞の規定に沿って上映時間40分以上の作品を長編とする

注:配信作品で劇場公開された長編は劇場用アニメとしてカウント。ただし、配信シリーズのイベント上映や総集編・再編集作品は除外

注:ゲーム原作の「DEEMO」はタイトルに劇場版という文言が入っているがアニメ化としては初なので劇場用オリジナルアニメとする

注: 音楽プロジェクトの「IDOL舞SHOW」もタイトルに劇場版という文言が入っているがアニメ化としては初なので劇場用オリジナルアニメとする(本編の約半分が担当声優のライブパフォーマンスという構成=アニメ部分だけの尺だと短編になるのでこれを劇場用長編作品にカウントすべきかどうかは議論のわかれるところだが)

リストを振り返ってみよう。

全作品とも興行的に失敗したと言っていいと思う。観客動員数ランキングのトップ10内に入っていない作品もあるしね。

興収ランキングまとめサイト(映画評価ピクシーン)によると、これらの作品の中で興収5億円を突破したものは1つもない。つまり、全てコケたということだ。トップの「犬王」ですら3億円だ。

結局、開店休業中のスタジオジブリを除くと、新海誠や細田守以外の劇場オリジナルアニメ映画はヒットしないということだ。

そうなる理由は明白だ。

キャラ設定はいかにもオタク好みのものなのに、メインキャラのボイスキャストには顔出し活動がメインの俳優やタレント、アイドルなどが選ばれているからだ。

つまり、一般にもオタクにも興味を持たれていないということだ。

もっとも、「雨を告げる漂流団地」はメインキャラ7人全てが本業声優だったのに(しかも、その中には水瀬いのりや花澤香菜もいる)話題にならなかったことを考えると、そもそも、劇場オリジナルアニメの扱う内容がオタクには好まれていないというのもあるのかも知れない。
どうしても、劇場オリジナル作品は一般向けに作るから、ポリコレ的な視線も入らざるを得ないので、いくらキャラは萌えやBL風でもストーリーがそうだと、老害ネトウヨ思考を持つアニオタには受け入れられないのかも知れない。

というか、似たような話ばかりなんだよね!

上記の一覧を見ても分かるように、青春ものとジュブナイルものが多い。
そして、キャラデザや背景も新海作品っぽいものが多い。
そりゃ、便乗作品とかジェネリック作品と思われても仕方ないよね。

本作「ぼくらのよあけ」も既視感だらけの内容だった。

●舞台は取り壊される運命にある団地
●団地が陸地から離れて移動する
●団地が水浸しになる
●ジュブナイルもの
●“人外”との交流を描いたファンタジー
●キーキー騒ぐ女キャラが出てくる
●スクールカースト的描写がある
●水瀬いのりと花澤香菜が出てくる

こうした要素は全て「雨を告げる漂流団地」と共通している。

そして、ツッコミどころだらけというのも共通点だ。

●取り壊し寸前の団地の閉鎖地域に子どもたちが簡単に侵入できるのも、30棟を簡単に水浸しにできるのもガバガバすぎる

●舞台は2049年の世界のはずだが、AIロボットが出てきたりするなどデジタル関係は多少は近未来感があるけれど、団地や学校の風景はそうした要素を排除すると昭和にしか見えない
あと、テレビに映っているワイドショーが地デジ放送になって以降、現在まで続いている演出のままなのだが、この演出は27年後も続いているのか?

●やたらと、JAXAのプロモーションビデオっぽく感じる箇所が多い

●宇宙人と接触したら通報しなくてはいけない世界という設定はどこ行った?

●主人公が仲の良い先輩男子を君付けするのはいいとしても、知り合ったばかりの先輩女子や仲良しグループメンバーの姉ではあるものの仲の良くない先輩をお前呼ばわりしているのもどうかと思う

そして、詰め込めすぎというのも共通点だったりする。

主人公の両親とヒロインの父親が、宇宙を巡る謎を若い頃から知っていて、しかも、三角関係にあった。しかも、主人公の母親はヒロインの父親の求愛を断る際に障害の残るケガをさせてしまったという設定はいるか?そして、主人公の父親の死についてもきちんと触れていないし、母親がヒロインの父親にきちんとした謝罪もしていない。全く設定が活かされていない。

主人公を含む仲良し3人組のうちの1人の姉が主人公たちと知り合うヒロインをいじめるグループのメンバーだったが、ヒロインと姉の対決が発覚して以降、立場が逆転し、今度は姉の方がいじめられる側になるという、攻守逆転劇は現実世界のいじめやスクールカーストが蔓延している現場ではよくあることだ。とはいえ、ヒロインの方が今度は姉弟をケガさせてしまうというのはよく分からない展開だ。しかも、曖昧な謝罪で済ませてしまっている。いじめとかスクールカーストの問題を描く必要はなかったのでは?これじゃ、ヒロインに共感できないよ。

そうそう、三浦大知が歌うバラードが主題歌というのも、大炎上した朝ドラ「ちむどんどん」を思い出してしまうよね…。

でも、全体を通して見ると、「雨を告げる漂流団地」ほど腹が立つことはないんだよね。というか、感動する。

主人公の声を担当した杉咲花の演技は確かに本業声優と比べると浮いている。でも、決して下手というワケではないんだよね。というかうまいと思う。まぁ、アニメ映画のメインキャラを演じるのは初めてではないしね。

それから、ヒロイン役の水瀬いのりや母親役の花澤香菜に関してはわざわざ言及する必要がないほどの安定した演技を披露している。

そして、AIロボット役の悠木碧に関しては見事としか言えない。このAIが下した決断にウルっと来てしまうのは彼女の演技によるものであることは間違いないと思う。
というか、まどマギのまどかも、かのかりの麻美も、クレしん映画のコアラも、白蛇吹替版の妖艶キャラも彼女なんだよね…。
まどマギの頃や声優ユニットpetit miladyとして活動を始めた当初は、アイドル声優的なイメージだったけれど、いつの間にか多彩な演技派になっているよね…。

というわけで、決してほめられる内容の出来ではないけれど、声優陣の好演で感動作に仕上がったという感じだった。

それにしても公開2週目を迎えたばかりなのに、1日1回の上映になっている劇場が多いとはね…。コケまくっているってことか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?