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ボブ・マーリー:ONE LOVE

2018年公開のクイーンの伝記映画「ボヘミアン・ラプソディ」は日本でも興収135億円超の記録的大ヒットとなった。

しかし、2019年公開でフィクション的な要素もまじえてミュージカルとして映画化したエルトン・ジョンの「ロケットマン」は6億円超。

2022年公開で「ボヘラ」同様、アカデミー作品賞にノミネートされたエルヴィス・プレスリーの「エルヴィス」は6億円超。

同じく2022年公開の「ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY」に至ってはたったの1.8億円しかあげていない(もっとも同作は米国での興行成績もイマイチだったが)。

そして、ボブ・マーリーの伝記映画である本作の現時点での興収は1.1億円だ。

いずれの作品も「ボヘラ」同様、アーティスト名や曲名を映画のタイトルにしているというベタなものなのに(何故、楽曲の邦題は「ロケット・マン」と中黒ありなのに、映画の邦題は中黒なしの「ロケットマン」になったのかは意味不明だが)、日本では大きな成功を収めていない。

「ロケットマン」はミュージカル作品だし、エルトンは存命だから同じジャンルの映画として語って良いのかどうかは迷うところだが、他の作品に感しては、「ボヘラ」と同じく、故人を題材とした作品という共通点もある(「ボヘラ」は厳密に言うとボーカルのフレディ・マーキュリーのみ故人)。

また、どのアーティストも洋楽マニアでなくても知っているアーティストばかりだ。ホイットニーの主演映画「ボディカード」のサントラ盤は収録曲の半分が他のアーティストの楽曲であるのにもかかわらず、日本だけで200万枚のセールスを記録した。

洋楽ファンは洋楽アーティストの伝記映画に興味を持たないのだろうか?国内の人気女性アイドルの主演映画をアイドルオタクが見に行かないのと同じような感覚なのだろうか?日本の音楽好きは洋楽だろうとアイドルだろうと映画に興味がないのが多いのだろうか?主演映画を何回も見に行き、SNSにマンセーコメントを書いているのってジャニオタくらいだよね。

よく考えたら、「ボヘラ」も「ボディカード」も洋楽ファン、音楽ファン、というか、クイーンもホイットニーもよく知らない人を動員できたからヒットしたようなものだしね。

そんなわけで海外ではヒットしたものの日本ではイマイチな興行成績の本作を見た。



うーん…。

ここ10年くらいの間に見たミュージシャンの伝記映画(ジャンル問わず)の中で一番出来が悪い作品としか言いようがなかった。

既に欧米でも知られる存在になり、本国ジャマイカでは大物アーティストとしての地位を確立し政治的な影響力も持つようになっていた1970年代後半の数年間を描いただけだ。

少年時代とか音楽活動初期の無名時代のシーンは回想としてちょっと挿入されるだけで、先述した作品群のように成功するまでの苦労なんてものはほとんど分からなくなっている。

また、こうしたミュージシャン伝記映画というのはそのアーティストの死もしくは、キャリアにおける重大なイベントでの成功をクライマックスに持ってくることが多いが、本作はそうした点でも不満の残る作品だった。

久しぶりに母国に戻り政治的な意味合いを持つ平和コンサートを開き、内戦状態にあった2大政党を仲直りさせたのに、そのコンサートが始まるところで本編は終わってしまう。
普通ならクライマックスになるはずの大盛り上がりのコンサートの様子も、2大政党が仲直りした場面もエンド・クレジットの背景でライブラリー素材が流れるだけだ。「ボヘラ」のLIVE AIDのように再現シーンをクライマックスに持ってくるのが普通では?

また、洋楽好きなら、がんの診断を受けたボブ・マーリーが信条から足の切断(正確には親指らしい)を拒否し、病に苦しみながら晩年を過ごすことになったのは有名なエピソードだが、先述の平和コンサートが始まるところで終わってしまうので、この病との闘いについてもほとんど触れられていない。

さらに、劇中で何度も開催したいと言及していたアフリカ公演も史実では実現したのに、その場面もエンド・クレジットでライブラリー素材が流れるだけだ。

一体、この映画は何のために作られたのだろうか?ジャマイカを追われる状態になったボブ・マーリーが無事帰国した。それだけの内容でいいのだろうか?

ネット上で指摘している人がいるように、ボブ・マーリーに関する知識がある人からしたら非常に物足りないし、何曲か知っている程度の知識しか持ち合わせていない人からすれば何が展開されているのかが全く分からない。そんな映画だと思う。

「ボヘラ」はクイーンやフレディのことをよく知らない人でもそのアーティストがたどった軌跡が分かるし(ちょっと、時系列が異なる箇所はあったが)、映画を見たことにより、クイーンやフレディのファンになった人もいたけれど、この映画にはそういう効果はないと思う。

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