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ザ・ビートルズ Get Back: ルーフトップ・コンサート

1970年公開のザ・ビートルズのドキュメンタリー映画「レット・イット・ビー」は80年代になってからは幻の作品となってしまったので、自分を含めた団塊ジュニアより下の世代では洋楽好き、映画好きであっても、この映画を見たことがないという人がほとんどだと思う。

何故、この映画が封印されてしまったのかは知らないが、まぁ、バンドの解散直前の時期を克明に捉えた作品だけに、関係者やファンにとっては、見るに耐えられないものが映っているのであろうことは容易に想像できる。

そして、ザ・ビートルズのラスト・アルバムとなった『レット・イット・ビー』(レコーディング時期でいえば、実際は前作『アビイ・ロード』が最後のアルバムだが)が2020年に50周年を迎えるのに合わせて、映画「レット・イット・ビー」製作時の素材を再構築する新たなドキュメンタリー映画が作られると発表された。
映画「レット・イット・ビー」のリマスターとか、追加シーンを加えたリニューアルではなく、別作品にするということは、余程、関係者はオリジナル版の内容が気にいらないんだろうなというのがよく分かる。

その新たなドキュメンタリーの監督にはピーター・ジャクソンが任命された。「ロード・オブ・ザ・リング」3部作や「キング・コング」などファンタジーやホラー系の作品で知られる監督だけに、一見、謎な人選に思われるかも知れない。
しかし、彼は第一次世界大戦時の映像をカラー着色したドキュメンタリー映画「彼らは生きていた」で高い評価をうけているので、膨大なフッテージをまとめあげる能力には定評がある。
そもそも、長大な小説「指輪物語」をまとめて、「ロード・オブ・ザ・リング」3部作という名作映画に仕立てあげたのだから、「レット・イット・ビー」の元素材から構築するのもお手のものといったところなのかも知れない。

ところが、コロナ禍に突入したことにより、『レット・イット・ビー』の50周年リマスター盤のリリースは51周年となる2021年に延期されてしまった。
そして、「Get Back」と題されたピーター・ジャクソン監督によるドキュメンタリー映画の公開も2021年に延期されてしまった。

でも、2021年になってもコロナ禍から抜け出すことができなかったため、配給のディズニーは「Get Back」の劇場公開を断念し、ディズニープラスでの独占配信というリリースの仕方に変更してしまった。

これは、実写版「ムーラン」や「ソウルフル・ワールド」などピクサーのCGアニメーションでも取られた手法であり、ディズニーが劇場公開よりも配信で収入を得るビジネス・モデルに転換していることがよく分かるやり方だと思う。

とはいえ、映画館で見たいと思っていたファンからすれば、“ふざけんな!”という話でしかない。しかも、わざわざ、このためにディズニープラスに加入しなくてはならない人も多いわけだしね。

当初は1本の作品として公開する予定だったものを、全3部作、トータルで8時間近い大作として発表することにしたのは、そうしたファンの不満を少しでも解消しようという下心もあったのではないだろうか。

自分は映画館を軽視するディズニープラスのやり方が好きではないので、今のところ加入する気はないが、見た人は概ね、この新たなドキュメンタリーを歓迎してはいるようだ。

しかし、それでもファンの不満を完全に解消することはできなかった。
それは、ビルの屋上で行われた「ルーフトップ・コンサート」と呼ばれるザ・ビートルズ最後のライブ・パフォーマンスがこの新たなドキュメンタリーの目玉の一つになっていたからだ。

そりゃ、ファンなら大スクリーン 、大音量で伝説のライブ・パフォーマンスを見たいと思うよね。

なので、そうしたファンの声に応える形で、ルーフトップ・コンサートの部分を抜き出した作品が劇場公開されることになった。
最近のディズニーは劇場軽視と批判されがちだから、そうした悪い印象を少しでも薄めようという狙いもあるのだとは思うが。

まぁ、いくらIMAX上映とはいえ、かろうじて上映時間が1時間を超える程度の作品で入場料が2500円というのはボッタクリだとは思うが。

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そして作品を見た感想としては、上映時間が短いので単なる演奏シーンだけを抽出したミュージック・ビデオ的な作品かと思ったら至極真っ当な音楽ドキュメンタリーになっていて驚いた(余談だがMVをプロモと訳した字幕はダサいな…。まぁ、昔はそう呼んでいたけれどね)。

冒頭には、ザ・ビートルズが結成されてから最後のライブ・パフォーマンスを行うに至るまでの歴史が数々の名曲・ヒット曲にのせて振り返られているので、彼等をよく知らないという人にも親切な作りになっている(もっとも、彼等に関する知識がほとんどない人が本作を見るとは到底思えないが)。

また、ライブ・パフォーマンス中には“観客”(立ち止まって屋上を見上げながら演奏を聞いているだけだが)のリアクションのみならず、彼等への
インタビュー、いわゆる街録もインサートされている。
今から50年以上も前の出来事だが、マスコミが誘導尋問的な街録を行うのは古今東西、変わらないんだなというのが分かって、資料映像としての価値は非常に高いと思う。
でも、高い入場料を払って、わざわざIMAXの大スクリーンで本作を見ようと思った人のほぼ全員がそう思っていると推察されるが、パフォーマンス映像に一般人の顔やコメントを挟む編集なんて望んでいないと思う。

また、騒音の苦情を受けた警察官が、ビルにやって来て、関係者とやり取りしている所は非常に面白いんだけれど、これも観客の望んでいるものではないと思う。

ミニシアターで上映されるような音楽ドキュメンタリー映画なら、逆にこういう構成にすべきだと思うが、本作はかろうじて上映時間が1時間を超えている程度の作品なんだから、ドキュメンタリー要素は求められていないわけで、パフォーマンスだけを見せれば良かったのではないかと思う。

まぁ、そうすると上映時間は3分の2くらいになってしまうし、さらには複数回演奏される曲を省略すれば、30分にも満たない作品になってしまうとは思うが。

というか、パフォーマンス部分の音質は良かったとは思うけれど、画質はIMAXの大スクリーンで見るほどクリアなものではないよね。

そういう意味で考えると、嵐の活動休止前最後のツアーを収録した「ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”」は、映画とは呼べない作りにはなっているものの、高額料金を払って鑑賞するライブ・ビューイング的なものとしては成立しているから、ある意味潔いのかもしれない。
音楽ドキュメンタリーにも色々あるけれど、本作とかオアシスの「ネブワース」みたいなパフォーマンスをそのまま見せない作品は高額料金を取るべきではないと思う。
その一方で、「ARASHI Anniversary Tour 5×20 FILM “Record of Memories”」みたいな作品は高額料金を取ってもいいが、映画ではなくライブ・ビューイングの収録作品という扱いにして、観客動員数とか興収のランキングからは外すべきだと思う。

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《追記》
やたらと上映前に何種類ものIMAX告知映像がしつこいくらい流れたが、あれはなんなんだ!1種類流せば十分でしょ!しかも、どれも長いし…。

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