見出し画像

ダイヤモンド市場に異変 人工が存在感

世の中の様々な値段がどのように決まっているのかを解き明かす、値段の方程式。今回のテーマはこちら、「ダイヤモンド市場に異変 人工が存在感」です。ダイヤモンドが値下がりしています。世界の宝石バイヤーが仕入れ値を決める際に参考にする「RapNetダイヤモンド指数」をみると今年に入ってから2割下がっています。

値段の方程式
BSテレ東の朝の情報番組「日経モーニングプラスFT」(月曜〜金曜の午前7時5分から)内の特集「値段の方程式」のコーナーで取り上げたテーマに加筆しました。

金や銀といった貴金属が値上がりしている中、宝石のダイヤ価格が下がっている理由は大きくわけて2つあります。1つめは世界的な経済減速による需要低迷です。世界的なインフレで消費の優先度は生活維持に向けられ、ダイヤのような嗜好品の購買意欲が減退しています。特に世界2位の消費国といわれる中国は不動産不況など内需低迷が長引き、経済の停滞感が強まっているため富裕層の購買力が低下しています。

2つめの理由が人工ダイヤです。生み出される環境が違うだけで、天然と原料や成分、構造がすべて同じものでできています。魚にたとえると天然ものと養殖ものと同じです。実は人工ダイヤの歴史は古く、初めて合成に成功したのは1900年代です。初期のものは質が劣っていたため、ダイヤの硬さを利用した切削工具やレコード針といった使われ方がほとんどでした。10年ほど前から技術が向上し、天然と遜色ない大粒で高い品質の装飾品が製造できるようになりました。
当初は価格は天然とそこまで大きな差がなく、ダイヤモンド業界の代表的アナリスト、ポール・ジムニスキー氏が出しているデータでみると2016年時点で天然ダイヤに比べて17%安ほどでした。

生産技術がこの5~6年の間に飛躍的に向上、新規参入するメーカーが増えました。その結果、供給過剰と価格競争を引き起こします。人工ダイヤの価格は今年に入り1カラット1000ドルを割り込みました。この8年で8割安です。天然との価格差も拡大し、いまは4分の1です。
環境問題への関心の高まりも人工ダイヤの普及を後押ししています。天然ダイヤの採掘には環境破壊や人権問題など様々な課題が指摘されていました。人工ダイヤは工場で作られるため環境負荷が低いというメリットがあります。イギリスのメーガン妃やハリウッド女優のペネロペ・クルスさんなどが人工ダイヤを着用して話題になるなど、セレブにも人気になっています。

大きいものほど価格差開く

そんな人工ダイヤを使ったジュエリーを販売しているのが3年前、銀座松屋にオープンしたENEY(エネイ)です。使っているダイヤはすべて人工で2万円台から高いものだと100万円以上で販売しています。大きくなればなるほど天然のダイヤとの価格差が出るそうです。0.3~0.5カラットになると、天然の半額から3分の1ぐらいです。
比べてみても見た目は全く変わりがありません。下の写真は1カラットの人工ダイヤが付いた商品。価格は75万9千円。天然だと4倍ほどになるといいます。価格以外にも人気の理由があるそうです。半月型や三角形などいろいろな形で作れることが魅力の一つだそうです。

ダイヤを使う指輪やネックレスといった装飾品(アクセサリー)自体は金や銀といった素材の高騰や為替の影響で値段は上がっているものが多いそうです。素材が一緒で天然と人工で同じ重さ(カラット数)のダイヤを使った場合、天然がおよそ4倍になります。

ここで今日の方程式です。
天然ダイヤモンドの価格下落=世界的な景気減速+人工ダイヤの台頭

アメリカでは人工ダイヤを婚約指輪の選択肢の一つになっています。民間調査によると2022年に人工の婚約指輪を選んだカップルは36%。シェアが2年で2倍に増えました。現在の人工品は特殊な機械を使わないと天然と区別できないほど。大粒のダイヤを好む人が多いアメリカでは人工ダイヤが受け入れやすいようです。日本で本格導入されたのはアメリカと比べまだ日が浅く、認知度向上が課題となりそうです。

人工ダイヤの価格競争で企業にも変化が起きています。アメリカのWDラボグロウンダイヤモンドは去年破産を申請。天然ダイヤ生産の大手で人工ダイヤも取り扱っているあるデ・ビアスは5月に人工ダイヤを4割値下げし、さらに宝飾品向けの合成ダイヤ生産を中止すると発表しました。

技術の進歩は目覚ましく、人工ダイヤの品質は天然と見分けがつかないほどに。価格も大幅に下落し、より多くの人が気軽に楽しめるようになりました。ダイヤといえば一生に一度の特別な宝石というイメージがありましたが、人工ダイヤの登場によって、その価値観が大きく変わろうとしています。(村野孝直)


いいなと思ったら応援しよう!