しんでし!1

「おぉ勇者よ。しんでしまうとはなさけない!」
王様の声が響き渡る。意識がゆっくりと戻ってくる
ぼんやりとしていた視界も開け、今自分が置かれている状況を把握する

「あぁ・・死んだのか。」

辺りを見渡す。眼前には王様。護衛隊長、あとは侍女だろうか。
横に控える人達がこちらを見ている。
なぜか女性は俺を見ないように顔を赤らめている。

せめてイケメンに生まれていれば、
また一人、惚れさせてしまったか・・なんて自惚れるが
生憎、自他共に認める「普通」なのだ。
「勇者」という職業以外、すべてにおいて「普通」の能力しかない。
優等生でも落ちこぼれでもない。中庸、「ザ☆平均」

そんな自分が勇者をしている事実。
内情を知らない人間には眩しく映るのだろうか。勇者万歳だな。

そんなことより、死んだ理由を思い出す。

たしか・・「さまよえる鎧」とかいうゴースト系のモンスターと戦闘中
小石に躓いてしまい、態勢を整えられないまま
肩口からバッサリと斬り付けられた。

言っててわかった。アホだよね。ザ☆平均!でもないね。
今日からは普通名乗れないね。アホだなぁ・・小石って。
せめて敵が仕掛けた卑劣な罠に引っ掛かったみたいな。
いい方向で改ざんしとこう。
ドラレコついてないし。
ドラ〇〇クエ〇〇レコーダーなんてないよね。
見てる人いなかったよね?
うん。大丈夫。

話を戻そう。
斬られた傷口は深く、激痛。自分の体の感覚がなくなっていった。
さまよえる鎧の勝ち誇ったような顔が
・・あ・・いや・・鎧なので顔はないが。
そんな顔が見えた気がした。
いや、顔はないんだけど。もう!空気で察して!
それが今覚えている最期の光景だった。

そっと肩から胸元へ手を伸ばす。
自分の体についたはずの大きな胸の傷はきれいさっぱりなくなっている。
生き返りってこんな感じなのか、本当に復活できるとは思わなかった。

どうやってここまで戻ってきたのか・・・

つけていたはずの鎧や兜、剣といった装備は
おそらくロストしたのであろう。一糸纏わぬ自分の姿を再認識する。

ん?一糸纏わぬ・・・?

っておおおおおおおおおおおおいいいいいいい!!!!!

全裸じゃねえか!
全裸のままで神妙に王様の前にいるとかどこのターミネーター・・
「アイルビーバック」なんて言ってる暇ないくらい即逮捕案件ですよこれ!って、戻ってきてるけど!
全裸で王様の前にいるけど!

侍女がこちらを恥ずかしそうに見ていた理由がわかった。

王様は焦る俺のことなんて気にすることもなく、
クドクドとお説教を続けている。
「勇者が死ぬなんてことはあってはならん。恥を知れ」

今まさにその恥を知っている最中です。

そもそもなんでわざわざ王様の前で全裸で生き返らなきゃいけないのか。
自分の家のベッドで復活させてくれよ・・・
王様のご高説も全く耳に入ることなく、
ただただひたすらに恥ずかしい時間が流れる。

「次こそはマオウを倒してくるがよい」

王様の締めの言葉を拝聴し、全裸のまま恭しく頭を下げる。
そして、そのままの姿でお城から解放された。
あの、すみません・・せめて服を下さい・・・・

「始まりの都」と言われる俺の住んでいる「ルーカスの町」は、
城下町だけあって活気があふれている。
人間以外にも獣人、ドワーフ、猫人、馬人などなど様々な種族が往来し、様々な色を出している。

これだけ多種多様!だからこそ全裸で葉っぱ一枚で歩く人間の男がいても
不自然じゃな・・・どう考えても、不自然だ。
前代未聞でしょ。勇者が全裸で町中歩くとか。

小さい子供に指さされながら
「あれ何してるの~?」からの
「見ちゃダメ!」のコンボも痛いけど
馬人からの「ふっ・・」と勝ち誇ったような視線を向けられるのも痛い。馬!覚えてろよ!
俺だっていつかきっと神様がやってきて
「願いをかなえてしんぜよう」っていうんだ。
ドラゴンみたいな神様に
「お~きな~いちも〇をく~ださい~♪」って歌ってやるんだ。

何事もなく、泰然自若の態度で歩くように努める。・・・無理。
このままでは勇者からストリーキングに転職。
別の意味で武勲を立ててしまう。

人目を避けるように路地裏へと逃げ込んだ。
一息吐き、体を隠せるようなものを探す・・が見つからない。
途方に暮れていると何やら前方で手招きをする怪しげな老婆を見つけた。

「ほれ、早くこっちにこい」
・・・無視しよう。

「お前じゃ。そこの全裸」
誰が全裸だ!って突っ込みたいが、「ザ☆事実」に俯いてしまう

「通報される前にこっちに入るのじゃ。歴代の勇者も同じ道を辿っておるぞ。」
そうか。歴代の勇者もみんなキングへと一度は転職してたのか・・
王様が動揺しないのも頷けた。
って王様。わかってるなら最初から対策してくれよ。
PCDAサイクル大事よ!ほんと!

老婆に誘われるまま建物へと入っていく。こ・・ここは・・・

部屋の中には怪しげな髑髏や水晶が光っている。
壁は黒を基調とした落ち着いた印象。
全体的にゴシックな装飾で統一されている。
それでいてしつこくなく、
時折ハートのオブジェが置かれていたりと
ゴシック&キュートの匠の業が光る
建築物マニアの俺の心を揺さぶる一品、いや、逸品!
この部屋すみた・・・くはないが。老婆のセンスの良さを感じる。

と変なところに関心していると、
奥から何やら探し物をしていた老婆が戻ってくる。
手にしていたマントのような身を隠す布を寄越してきた。
厚意に感謝し、マントを羽織ると、光の粒が現れ、
簡単な衣服が出来上がった。
「おぉ・・・」
物質創造系のマジックアイテムなのか?
すごすぎる!カメラアングルもグルグルと俺を囲むように回っていたし。
「初恋は甘くて苦い!キュアブラック!」とか叫びたくなる。
変身ってすごいよね。

「おぬし、勇者のようじゃが、名前は何というのだ?」
老婆から聞かれた瞬間、
何やらポップアップのような画面が飛び出してきた気がした。はいはい。

「俺の名はワタリ、高宮ワタリだ。」
そう。ワタリ。
両親が不器用な人が大好きすぎて名字なのに名前として付けた。
大好きすぎるのになんでワタリなんだよ・・・タカクラだろ・・・

「ほう。和の国の出身か。礼節を重んじると聞いておるぞ。」
「私はルーカスで生まれ育っています。父親が和の国出身とは聞いていますが・・・」
「そうか。遠方の地から勇者が選ばれるのは珍しいと思ってな。」

ルーカスの町には勇者についての言い伝えがある。
勇者というものは世界で1人。
戦闘で死んでも王様の元へと舞い戻り、マオウを倒すまで続ける。
ただ、マオウを倒せないまま寿命が来ると、
次の勇者が生まれ、またマオウへと挑んでいく。
自分が何代目なのかはわからないが、
この世界で唯一の勇者として俺は生まれた。18歳まで大事に育てられ・・
つい先週。冒険の旅に出たばかりだった。

「まだ勇者になって間もないので・・・」
「それならまだスキルもわかっとらんのじゃな。どれ、ワシが診てやろう」

勇者には生まれながらの「スキル」があり、
この「死に戻り」は勇者すべてに備えられるスキルだという。
ただ、それ以外にもう一つ、
勇者個別のスキルがあるということなのだが、
俺のスキルは現時点では判明していなかった。
どうせなら女の子の心をぎゅっとつかんで離さないスキルとか、
大きないちも・・それはもういいか。

「バル〇」

って唱えただけで世界が崩壊するほどの力を出すことができるとか、
そういうスキルだと嬉しいが。

妄想に耽っているとビューと名乗った老婆はワタリへと手を翳した。
やわらかい光に包まれていく。

「ふむ・・・おぬしのスキルは珍しいの。”身体変化”じゃな」
「身体変化・・・ですか?」
「そうじゃ。わしらにはいろいろなステータスがあるのは知っておるじゃろう?大きく分けると、ちから、すばやさ、ちりょく、たいりょく、うんのよさ、の5つ。更にそこからユニークステータスとして3000個ほどある。
おぬしのスキルはそれらの数値をいじることができるという優れモノじゃ」

スキルが判明したのはいいが、変化というからには・・・
「身体変化を使えば全てのステータスを1つに極振りすることも可能じゃ。例えばこの「ゴミ箱にゴミを投げ入れる」ステータスを100にするとな。
完璧に入れることができる」

そんなステータスいらねええええええええ!!!!

いや、何そのステータス!?
3000に分類するのはいいけどそういうのまであるの?
唖然としているとビューはさらに続ける

「もしくはこの「何もない所で躓く」ステータスを10にすると10歩に1回
 は躓く。おぬしはこのステータスが1となっておるから100歩歩くと1歩
 は躓くな」
よく躓くはずだ・・・変更しなければ。って増えると確率あがるんかい!

しかし、どうやってスキルを発動させればいいんだろう?
「身体変化するにはどうすれば・・・?」
ビューは毛先を指先で遊ばせながら答える。
「変化させるためには必要なアイテムと、乙女の祈りが必要じゃ」
「乙女の祈り?」
「そう。このワシの祈りがな。」
・・・どこからどう見ても乙女に見えないが。と突っ込みたくなったが、
気を取り直して話を続ける

「必要なアイテムというのは・・・?」
「天使の羽じゃ。それがあれば可能じゃよ」
「天使の羽・・・どこで手に入りますか?」
「店に売っておるよ。防具屋に売っておるが、おぬし今お金ないじゃろ?
 ワシの手持ちを持ってくるから待っておれ」

頭の中で「ラランラン♪ランドセ」と鳴っているがよくわからない。
放っておこう。

しばらくすると、ビューが戻ってくる。
「ほれ、これじゃ!」
と手渡されたものは、ネックレスだった。
飾りが羽の形状をしているアクセサリ。

「あとは、おぬしが考える最強のステータスを思い浮かべればいいのじゃ」

といいながらソワソワするビュー
僕の考えた最強の・・・うーん。

力全振りで全て一撃必殺なんていいよね。
うん。マオウも一撃で倒せれば・・
ありえない妄想に耽っていると天使の羽がぽうっと輝きだす。
そのまま光は大きくなりワタリを包み込んで、消える。

「うまくいったぞ。おぬしのステータスが変化しておる。
 基礎ステータスは力がMAX,それ以外は1.
 特殊ステータスは3000項目すべて0じゃ」

マックス。数値で表すとどれくらいの値になるのだろうか?
ビューに聞くと首をかしげる
「ワシも9999くらいまでは見たことがあるが、それ以上はわからんの・・」
「試してみないといけないですね。」
と手元にあった怪しげな鉄の塊を掴む。いや、正確には掴もうとした。
鉄の塊はまるで雪どけチョコのようなまろやかさで消滅していた。

「これは恐ろしい力じゃ!マオウも一撃で倒せそうなレベルじゃ!」
と言われ照れた勢いで頭をかく・・・

掻こうとしたのが間違いだった。

力が強すぎて制御できず、自分の体が床の下までめり込み・・・

石の中にいる!

GAME OVER

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