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“テレビで社会は変わらない”自由な表現の場を作る挑戦

 TBS「報道特集」の元ディレクター佐治洋さんは、今年3月、13年働き続けたテレビの現場を離れ、テレビの報道番組のディレクターやドキュメンタリー監督らと4年前に立ち上げた映像プロジェクト「Choose Life Project」の活動を本格化させることにしました。メディアに属しながら、伝えるべきと思うことを伝えられないというジレンマを抱える有志のメンバーとともに、自由に映像表現を行う場。活動継続のために募ったクラウドファンディングでは4000人以上の人から3000万円以上の支援が集まるなど、これまでの報道のあり方に一石を投じる動きを牽引しています。突き動かすものは何なのか。今のテレビ報道に何を感じるのか。
笑下村塾のたかまつななが、お話を伺いました。

“僕がテレビをやめた理由”

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--佐治さんは元々TBSの制作会社で社会部の記者や「報道特集」のディレクターもされていたんですよね。私も以前取材していただきました。

佐治:たかまつさんがちょうど2019年の参院選の際に「選挙に行くな」という動画を出された頃ですよね。

--なつかしいです。佐治さんは、今年の3月にTBSの制作会社を辞められたと。TBSは自由な報道がすでにできる環境だと思っていたのですが、どうして辞められたんですか?

佐治:TBSの社風自体は僕も嫌いじゃなかったです。筑紫哲也さんが残されたことを継承していて、報道特集も素晴らしい番組です。ただ視聴率を取りに行こうという場ではもちろんなくて、ジャーナリズムとしての役割を旬なタイミングで果たせる番組でした。
ただ僕自身が感じてたのは、やっぱり放送が“一週間に1回”なんですよ。
そこでどれだけいい番組を出しても世の中は良くならない。そう考えたときに、デイリーのニュース番組で何を伝えていくかのほうが大事なんじゃないかと考えるようになりました。世の中に何かを伝えるときに一週間に1回いいものを出していっても追いつかないですから。

--めちゃくちゃ分かりますね。

佐治:テレビが全く嫌になって辞めたってわけではないです。むしろテレビの可能性は今も信じています。だからこそ1回外に出て、ネットの世界というか、「メディアを繋ぐメディア」として動いていけたらいいなと思っています。

「“報道の意味って何・・” 
安保法成立で突きつけられたもの」

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--テレビの中で限界を感じられたことがスタートなんですよね?

佐治:きっかけは2015年9月19日、安保法が成立したときです。安倍政権が越えてはいけない一線を越えた。報道も国会前のデモも、ここまで盛り上がって、それを突破してくるってことは難しいんじゃないかと最初は思っていたんですけど、強硬的に、憲法を超え、法の解釈を変え、今までできなかったことをする。そのとき僕らの報道の意味って何だろうと思いました。正面から民主主義とは何かなんて考えたことは今まで一度もなかったんですが、自分たちにできることとは何か考えるようになりました。そして、翌年の参院選が安保法通過後初の国政選挙になったわけですが、まずはこの投票率をどうにか上げることができないかと、2016年7月に「Choose Life Project」の活動を始めました。

「是枝監督の動画でネットデビュー!!
しかし、わずか“3いいね”の衝撃」

--報道現場のみなさんでなんとかしなきゃって立ち上がって、映像プロジェクトとしてYouTubeでどんどん配信していこうされていたんですよね。

佐治:本当にたかまつさんもテレビの中にいたから分かるかもしれないんですけど、いわゆるネットの世界っていうのは全くの素人で。

--全然違いますもんね、テレビと。

佐治:文化が全然違うんです。一番最初に公開したのは是枝監督の動画だったんですけど。

--すごいですよね。

佐治:ただその反応が・・。テレビとしてはこれだけの人をキャスティングしたらすぐ見てくれる。ところが、本当に最初、Twitterで「3いいね」みたいな。再生回数は100回いくかいかないか・・。でも誰かが動けばそれは成果だと前向きに捉えて、そこからずっと選挙のたびに著名人の方々に投票に行こうと呼びかけてもらう動画を公開していきました。


テレビのニュース番組で限界を感じるディレクターらと共に

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--今どういう体制でやられているんですか?

佐治: 20代、30代、40代ぐらいで4、5人がコアなメンバーで動いています。テーマごとに、沖縄問題、検察庁法などを専門的に知ってる記者の方やディレクターの方に連絡をしてアドバイスをもらいながらやっています。

--その4、5人はどうやって集まったんですか?やっぱりメディアの中で限界を感じているような内部の人が多いんですか?

佐治:基本的には内部の方とか、記者ですね。あとは本当にデザインとか映画系の人たちも集まっています。

テレビで働く人たちの中に志は確かにある

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--佐治さんがお仕事の中で、これはテレビに入ってよかったと感じたり、やりがいを感じたりしたのは、どういうところなんですか?

佐治:一人では番組を作れないですよね。撮影を担当する人や編集を担当する人の視点が入って、そこで初めて自分では気付かなかったものや見方を発見できる。その世界観というか、それを確認したときはすごくワクワクしますね。だからこそ可能性をすごく感じるんです。ディレクターや記者、撮影や編集を担当する一人一人が志を持っているし、伝えたいと思うものを持っているんです。持っているんだけど、局内ではそれを伝えることができない空気感になってしまっている。

--官僚の人も一緒ですよね。人事権結局握られると自由にできない。

佐治:本当にテレビジャーナリズムの限界というのは感じます。新聞は、取材をする行為がそのまま仕事になるじゃないですか。テレビの場合は他にも情報制作局、ドラマ局、編成局とかいろんな仕事がいっぱいある中で、栄転という名の・・・。

--報道現場からは離れちゃうけど。

佐治: 「これは栄転コースです」って異動になっていくと、心あるディレクターだった人たち、編集長の人たちがいなくなる。若い人たちに教育できない環境が生まれているから、なおさら悪循環になっているかなと思うんです。

--それぐらいもう、できる場が限られていたということですか?

佐治:そうです。TBSに限らず、他の民放含めて考えましたけれど、やっぱり今のテレビでは自分が伝えようと思うことが出せる場所がないなと。

--本当にそうですね。もちろん素晴らしい番組はあるものの、提案を通すのに2年ぐらいかかっている先輩を間近で見ると、やっぱり未来を感じられなかったです。

佐治:その分時間は止まってくれないから。今社会は良くなってるの?って見たときに、良くなってるとは思えないんですね。

今のテレビに足りないこと “菅さんの素顔を見たい?”

佐治:たとえば今(2020年9月、安倍総理辞任後の総裁選前のタイミング)で言うと、“みんな菅さんの”素顔”を見たい?”って思うところもあるんです。ただ、そういう伝え方するだろうなっていうのは、反面分かる。見てもらうためにという工夫は確かに大切なんですけど、「何を」が今抜け落ちちゃっていると思うんです。それは、「これは絶対伝えようよ」って部分。たとえ関心を持っている人がその時点では多くなくても、それを伝えていくのが本来のやるべきことだと思うんです。

--NHKですごく感じたんですけど、政治ニュースには政治部の人たちだけが関わって、それ以外のディレクターは政治の世界を知らないということが多い。でもどんなニュースや課題もその先で解決できるのって結局、政治。今の政策どうなってるのか、政治はそこに向いているのかってところが気になっていました。

佐治: だから権力に寄り添っていってしまう。寄り添う相手違うだろうと思うわけです。寄り添う相手はやっぱり声なき声であるべきだし、声を出せない人たちの声を拾っていかないといけないと感じています。「拡声器ではなくて聴診器である」。これも是枝さんから教えてもらったんですけど、そういったものが本来のメディアのあるべき姿だし、そこはChoose Life Projectとしても大切にしていきたいなと思っています。

「#検察庁法案に抗議します」が生んだ初めての動き

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佐治:今年の5月の検察庁法改正の動きのとき、皆さんがTwitterのデモという形で声を上げたこと、あれは一つのターニングポイントだったと思っています。

--すごく政治的な関心が高まって、ちょっと動いた感じしましたもんね、世間が。

佐治:本当にあれは初めての経験で、僕自身も「国民から反対の声が多くあがっていても、政権が通そうとする法案は基本的に通るもの」だと諦めていたんですが、止まったのを見たのは初めての経験だったと思います。

誰もが政治的な発言をできる場を作る

同時にChoose Life Projectが2016年からやり続けていることは、著名人の方々が政治的な発言をしにく空気感を変えたいということでした。だから、是枝監督や周防監督など、いろんな文化人・著名人の方々にお声がけをしてきたんです。その精神を検察庁法にも重ねていったときに、小泉今日子さんなどの著名人の方々が「Choose Life Projectを見てます」、「応援していきたい」と言ってくれていて、励みになりましたし、希望を感じました。これからも、“安心して政治的な発言ができる”と思ってもらえる場所を作っていきたいです。

--私も一つYouTubeやってる理由にそれがあります。たかまつの番組だったら話してもいいかなみたいな。今後はChoose Life Projectはどんなメディアにしていきたいんですか?

佐治:まだ正直手探りな状態は続くと思います。ただ、何を伝えるかっていうのは絶対ぶれないでいようと思っています。また、この7年間、安倍政権は功績も残していますが、壊したものもいっぱいあります。それをもう一度立て直すっていう意識の中でやっていきたいです。本来民主主義の国として大切なのは、「自分たちで考えて、自分たちで判断して、自分たちでやる」っていうこと。これを絶えず発信していきたいと思います。


--既存のメディアとどういうふうに棲み分けをしたいとお考えですか?

佐治:対テレビ、対マスメディアという構造はあまり作りたくないので、何を伝えたいかっていう部分を主眼に置きながらメッセージを出していきたいです。ネットだ、テレビだ、と分断されたものではなく、テレビの人とも新聞の人たちとも繋がる、もしくはフリーの記者さんともつながる。そういう人たちとも連携できる場所にもしたいと思っています。だからChoose Life Projectは一応僕が代表としてやっていますが、僕のメディアではなくて、私たちのメディアという位置付けでやっていきたいです。

--今後とも宜しくお願いいたします!本日ありがとうございました。

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動画はこちらから
https://youtu.be/OXCWUsGfdnY


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たかまつなな/笑下村塾 代表
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