『お金は銀行に預けるな』を信じた人の末路 (勝間和代さんのヒット本に10年越しの書評を書いてみたんだ。)
ちょうど10年前の今日、2007年11月16日に、勝間和代さんの『お金は銀行に預けるな 金融リテラシーの基本と実践』という新書が出版された。
資産を銀行預金の形でしか持っていないことのリスクと、分散投資のための基礎的な金融リテラシーを分かりやすく解説した入門書だ。
勝間さんのおそらく最初のベストセラーで、この本のヒットもあって勝間さんは一躍、時の人として様々なメディアに登場することになり、勝間信者が増殖した。
きっと、この本をきっかけに投資を始めた人も多かったのではないかと思われる。この本で勝間さんが投資の初心者に勧めたのは、「日経平均と連動して値が上下するインデックスファンドを毎月決まった額購入すること(=ドルコスト平均法による日経インデックス投資)」だった。
しかし、である。
本は売れたものの、出版されたのとほぼ時を同じくしてサブプライムローン問題が起こり、株価は下落。翌年のリーマンショックによる暴落につながっていった。そのため、この本を信じてインデックス投資を始めた勝間信者は、その出だしから日々削られていく自分の資産を見つめ続けるという迫害にも似た苦行に直面し、早くもその信仰心の強さを試されることになった。(初期の信奉者が迫害やら何やら受難的なものに遭遇することはままある。)
具体的にはどの程度の苦行だったのか。
Yahoo!ファイナンスの日経平均時系列データ(https://finance.yahoo.com/quote/%5EN225/history)を基に、
2007年11月1日から、毎月初日に日経平均株価に連動したインデックスファンドを一定金額購入するという積立を行ったと仮定し、保有している株式総額が、投資した元本合計に対してどのくらいの比率だったのか算出。その推移をグラフ化すると、以下のようになる。
ご覧頂くと分かるように、積立を開始してから1年後にはリーマンショックの直撃を食らい、資産価値は6割台に下落してしまっている。投資の初心者にはなかなかショッキングな状態である。
実際に、2008年〜2009年当時のamazonレビューには、迫害に耐えかねて棄教した勝間信者たちの怨嗟の声を読み取ることができる。
一例をご紹介すると、例えばこのようなレビューが登場している。
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「この本が発刊された2007年に日本株インデックスファンドを購入した人は、2008年,2009年になり、ほぼ全員がマイナスになっているはずです。
一方、その間定期預金をしていた人々は元本を減らしていませんから、投資で損した人に比べれば、相対的には、実に賢く労せずして資産を増やしたことになります。
サブプライムローン問題を回避できなかった投資家はたくさんいますが、決してこれが例外的なリスクなのではなく、これこそがよくあるリスクなのです。
(つまりプロでも、いまだリスクは回避できていない。)
ここ20年余りの金融工学は「証券化」を始めとして、いかにリスクを他人に売りさばく(押し付ける)かの技術を編み出してきたといっても過言ではありません。
プロでさえリスクを転嫁することに腐心しているのに、そのリスクを買いましょうと素人に 薦めることの欺瞞に気付くべきです。」
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このレビューにも色々と突っ込みどころはあるにせよ、当時の状況を考えると「気持ちは分かる」と言わざるをえない。
では、この後も諦めずに積立を続けた場合、どうなったか。積立を始めてから5年後の2012年11月までの推移を見てみよう。
最悪期は脱したものの、鳴かず飛ばずでなかなか100%を超えられない。なんと5年間も元本割れの状態を続けているのだ。
迫害が続き過ぎて、いい加減、救いがほしいところだが、更にめげずに5年間続けた場合はどうなったのか。
アベノミクスの風を受け、前半5年間の苦労を吹き飛ばすかのように、後半5年間はひたすら上昇している。(迫害の5年間の間に安い価格で積み立ててあるから当たり前なのだが。)
最終的に、直近2017年11月1日の時点で元本に対する比率は181%。10年間の積立で、資産を2倍近くまで増やすことになった。信じるものは救われたのだ!
結果的には、勝間さんの教えを守り、迫害にめげず、道を外さずにいた人は現在、大勝ちはしないまでも、それなりのリターンを得ていることになる。『お金は銀行に預けるな』を信じた人の末路は結構、幸せだったといえるが、途中で脱落した人も多かっただろう。
株価が20数年ぶりの高値を更新し、書店には投資を勧める特集も増えてきた。これはちょうど10年前、この本が出された環境に似ていなくもない。
という訳で、熱に浮かされず、かと言って守りに入らず、自分の頭で考え続けるスタンスを、改めて大事にしましょうね、という話でした。
最後に、この本をきっかけに投資に興味を持ったものの一人として、著者の勝間和代さんにお礼を言いたいと思います。ありがとうございました。
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