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Anthony Albanese et al. (2023)「創設者たちの忘却? 現代における古典的理論の利用」

Albanese, A., Elise Wolff and Alan Sica, 2023, “Forgetting the Founders? The Uses of Classical Theory Today,” Society, 60, 722–732.  https://doi.org/10.1007/s12115-023-00873-6

この論文では、現代の社会学において古典的な理論家がどの程度参照されているかを、アメリカの大学のシラバスおよび主要英文誌の掲載論文の計量的分析によって明らかにしている。

著者たちの問題意識は、現在の社会学が「統計的に洗練させることなどのテクニカルな標準」ばかりを重視して「社会についてのわれわれの知識への実質的貢献」が軽んじられているという点にある(p. 722)。しかし著者たちによると、「精確には社会学者たちは研究のなかでどのように理論を利用しているのかについて、体系的な検討はほとんどなされていない」(p. 722)という。そこで本論文は、アメリカの22大学の古典的理論のシラバスと社会学系雑誌掲載論文217本の分析によって、古典的理論の参照の実態を明らかにすることを試みている。

分析対象となる論文の掲載雑誌と時期は以下の通り。

  • American Journal of Sociology (2018-2020)

  • American Sociological Review (2018-2020)

  • Social Forces (2019-2020)

  • Sociological Forum (2019-2020)

  • Sociological Quarterly (2018-2020)

  • Social Problems (2018-2020)

  • British Journal of Sociology (2019-2020)

  • Sociological Theory (2018-2020)

  • Theory & Society (2018-2020)

  • Theory, Culture & Society (2019-2020)

  • European Journal of Social Theory (2019-2020)

これらの雑誌の多くは6月に刊行される号があることから、それぞれの6月号を収集した(p. 726)。また特集論文は除外した(p. 726)。[コメント:6月に限定する必要はないのでは?]

分析の結果わかったこと(の一部)は以下の通り。

  1. アメリカのシラバスにおいては、古典理論としてマルクス、ウェーバー、デュルケム、デュボイス、エンゲルス、アダム・スミス、ジンメル、トクヴィルの順の頻度で言及されている(p. 727)。

  2. 理論系ジャーナル(theory journal)では上記8名の古典理論家のうちのだれかが1回以上引用されている論文は42.9%(56本中24本)であるのに対し、調査系ジャーナル(research journal)では21.1%(161本中34本)にとどまる(p. 727)。

  3. 上記8名の古典理論家を引用している文における引用の仕方について、いわゆる「記念的引用(commemorative citation)」ないし「うわべだけの引用(perfunctory citation)」——著者たちが「非本質的な引用」としているもの——は、理論系ジャーナルでは52.6%であるのに対し、調査系ジャーナルでは82.3%にのぼる(p. 728)。

(→データの詳細については、元の論文をご参照ください)

以上の分析から、著者たちは「社会学の大学院生は全員古典的理論のコースワークを受けねばならないのに、このトレーニングが社会学的研究(sociological research)の生産において思慮深い利用にもたらされることは稀である」(p. 729)と述べている。さらに著者たちは、こうしたことの背景として研究資金の問題——社会学者が研究資金を獲得するうえで「人文学は最小限の助力しか与えない」こと——を挙げている(p. 729)。


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