『Sweet 16』 #佐野元春

大昔の雑誌を整理してたら裏表紙に佐野さん。

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かっこいい。
1992年7月リリースのアルバム『Sweet 16』の広告。
その前のアルバムには僕は手放しで喜べなかった。その反動もあって、このビジュアルとともに届けられたアルバムの曲たちに大興奮した。
そんな頃の記憶をたどって書きます。

家へ帰ろう

"その前のアルバム"と書いたのは、オリジナルアルバムの『Time Out!』(1990年11月リリース)とコンピレーションアルバム(リアレンジされた曲を含む)の『Slow Songs』(1991年8月リリース)のこと。
「家へ帰ろう」と歌われる曲で終わる『Time Out!』と、文字どおりスローナンバーを集めた『Slow Songs』。
東京やニューヨークの街を歌ってた佐野さんが家へ帰ってしまった。脈を打つビートも止まってしまって、タキシードに蝶ネクタイ(←勝手なイメージ)でオーケストラをバックに歌う人になってしまった。そう思った。「なんだよ佐野さん、"バック・トゥ・ザ・ストリート"してくれよ…」と。

トップランナーの座

誰もが知ってる『SOMEDAY』、ニューヨークでヒップホップの直撃を喰らって作られた大傑作『VISITORS』、ロンドンで現地の腕利きのミュージシャンと作り上げたこれまた大傑作の『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』…
奇跡のようなそれまでの10年間の偉業と影響力だけで、もう十分なのかもしれない。
でも、本当にこのまま失速していくのか…

奇しくも、フリッパーズ・ギターが1990年6月に『カメラトーク』を、1991年7月には『ヘッド博士の世界塔』をリリースしている。(僕はヘッド博士から知って遡った)
佐野さんがそうだったように、それまでのロックに新しい世代が異議申し立てをするように新しい音楽を生み出し、進化と深化を続けていた。(今振り返ると僕らは日本のロックファンとして幸福な時代に居合わせていた)

※ちなみに1991年が明けた時点で、佐野さん34歳、小沢22歳、小山田21歳。(佐野さんと小山田は早生まれ)

再び路上で

『ヘッド博士の世界塔』が出た1991年、佐野さんは『Slow Songs』だけでオリジナルアルバムのリリースもツアーもなかった。
しかし翌年早々から全国ツアーを決行(「See Far Miles Tour part I」)。
"ニューアルバムを引っさげて全国ツアー"という言い回しがクリシェになっているように(逆にニューアルバム以外の何かを引っさげている人の話を聞いたことがない)、"アルバムを作ってツアーでお披露目"が一般的だった中、この頃の佐野さんは、ロードで、ライブで、ツアーで、バンド(ザ・ハートランド)とオーディエンスとともに何かを再発見したいという気持ちだったとか。

帰ってきた佐野元春

そして彼は帰ってきた。タキシードは脱ぎ捨てて(←あくまでも勝手なイメージ)、新しいシャツに着替え、モンキーに乗って。
いったんは家に帰ったけど、「世界地図を広げて行きたい場所に印を付けたらすぐに出かけるぜ」と、また僕らを引っぱっていく。
目の覚めるような小気味よく鋭い曲たちが『Sweet 16』には並んでいた。胸が躍った。

アルバムの1曲目、『ミスター・アウトサイド』。
1990年前後で、イギリスのバンドが叩き出すビートが明らかに変わってきていた。それに呼応する新しいビート!

初期の有名曲『ガラスのジェネレーション』へのアンサーとも言える『ぼくは大人になった』(『Time Out!』に収録)も、ライブでは新しいビートとともに披露されている。

この頃に僕自身の上京も決まった。もしかしたらこのアルバムが少なからず影響してたかもしれない。
(そしてその十数年後に『空よりも高く』を泣きながら聴くことになるなど知る由もなく…)

公園通りのシークレットライブ

翌年の1993年、「See Far Miles Tour part II」が終わり、次のアルバム『ザ・サークル』を制作。
そのリリースを間近に控えた10月のある日、読売新聞にこんな広告が載る。

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僕もすでに上京していたけど、そんなことはまったく知らず…

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もしかしたらこのストリートライブは、ビートルズでいうルーフトップ・コンサートのようなものだったのかもしれない。さらにその翌年の1994年、ハートランドは解散をむかえる。
(写真をよく見ると、そのライブをコーネリアスのソロデビューの看板が見下ろしているのがわかる)

空白の一年

少しだけ時を戻して1991年。オリジナルアルバムのリリースもツアーもなかったこの年、佐野さんに何があったかをファンが知るのはもう少し後のこと。

『Sweet 16』のライナーノーツの最後にある言葉。

「このアルバムを父に捧ぐ。 佐野元春」


#佐野元春
#Sweet16
#スウィート16


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