進学のカリスマ教員になる1つの方法

 私が昔勤めたことのある進学校に受験の神様と言われた先生がいらっしゃいました。私より4才くらい年上の人でした。昔は県内でも良い高校と言われていたのですが、その頃はかなり低迷していて受験指導に熱心な先生方は、昔の栄光を取り戻そうと頑張っておられることは本にも書きました。その第一人者と自他共に認められたのがC先生です。職員会議で2年生から習熟度別クラスを作ろうと提案されました。いわゆる成績の良い生徒だけのクラスを作り難関大学の合格率を上げようというのですが、私も含めた多くの職員に反対されてしまいました。次の年にまた同じ提案をされて、その説明は習熟度の低い生徒のクラスに優秀な先生を配置して底上げをしたいと言われました。多分1年間かけて根回しをされていたのか、私のような反対者は少なく可決されました。
 次の年度から実施されましたが、C先生は習熟度の高いクラスしか担任されませんでした。その6月頃、廊下でC先生が怒鳴る声と竹刀で何か(多分生徒の尻)をたたく音がかなり遠くの職員室にいる私の耳に入ってきました。曰く「隣の阿呆組の奴がお前を見て笑ろとるやろがぁ」です。それを聞いて、なるほど受験のカリスマ教員になる方法はこれかと思いました。当然そのクラスの生徒は全員進学希望ですから、その先生を信頼していて、多少のことなら笑っています。しかし勉強への取り組みが甘いと、エスキモーの犬ぞり方式を取り入れていたのだと思います。エスキモーの犬ぞりたちの中には1頭だけ力のない犬を入れます。御者はスピードを上げさせたいときに必ず、この犬だけに鞭を当てます。すると全部の犬にむち打ったのと同じ効果があり、スピードアップするのです。つまりたたかれ専用の犬です。犬と違いその生徒も優秀なのだと思いますので、恥ずかしさと屈辱感でこれからはこんなことのないようにするはずですが、先生の狙いはクラス全員に同じ思いを抱かせることだったのです。その数年前に成績の良い生徒と私が雑談していたとき「勉強しとるか」と聞いたら「うん、適当に」と答えましたので、「適当にっちゃ何」と聞き返すと「年度初めの最初の授業で、各教科担当の先生から、俺の教科は1日何時間勉強せえと言われるんじゃけど、全部の教科の勉強せないかん時間数が24時間を超えるんじゃがな。そんなことできるわけないやん。ほんやけん、適当にしよるんよ」でした。なるほど先生は自分の担当教科の成績を上げるためには、他の教科の勉強時間を取り上げて、自分の教科に割り振らせるしかないのです。上に書いたクラスの生徒は、確実にこの教科の勉強時間を増やしたことでしょう。当然その教科の成績も上がり、先生の実績と信頼が増します。そのため、生徒・保護者だけでなく他の教員までもが多少のことは目をつぶってくれます。例えばこの高校には補習科といって、受験に失敗した生徒に勉強を教える予備校的なクラスがありました。補習科の生徒が一番多い3年次のクラスの担任がするのが暗黙の了解になっていたようですが、C先生は除外されます。しかし12月になり、志望校決定のため補習科担任と生徒の面談の後、C先生が3年次の担任だった生徒は、C先生と面談をしてから志望校決定となっていました。補習科の担任も仕方ないと諦めていました。
 当然最後は校長先生に出世されました。まあ、新任教員で赴任したときから、先輩教員たちに「わし校長になるけんな。その時はみんな使てあげるけんな」と言って、先輩教員にたしなめられたそうです。すごいなとしか言えません。今ではこの方法は使えないと思いますが、よき(?)時代のカリスマ教員から校長への1つの方法ではあったと思います。
 もう30年以上前の話ですが、この高校は今も習熟度別クラス編成をしているのかなぁ。私がいた頃から習熟度の低いクラスの生徒を中心にこれらのクラスをユウクラ(優秀クラス)、自分たちのクラスをボンクラ(凡人クラス)と呼んでいました。こんな呼び方になってしまって2年次にボンクラになった生徒が頑張って3年ではユウクラになりたい思うのかなぁ。ましてや3年次にボンクラになった生徒は頑張れるかなぁ。このクラスの方が人数が多いのに。

 タイトルの書き間違いです。訂正します。

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