教師のカリカチュア
私は学生時代に私立高校で時間講師をしたことがあります。高1の4クラスの数学を担当したのですが、分数の足し算すらできない生徒がかなりいました。しかし専任の先生は、全学年で同じ問題のテストをしたら平均点は1年生が一番上で3年生がビリだろうと言います。当然クラスはうるさくて授業になりません。そうすると専任の先生から「あんたは生徒に舐められている。私は○年○組は制圧した」と言われたので「制圧したとはどういうことですか」と聞くと「そのクラスで一番目立つ奴を血祭りに上げるんだ。そうすると次の時間から授業中はシーンとなる」と得意そうに言われたのです。
そして同じ講師の中には他の学部ですが3年生の授業を受け持つ学生もいて、「生徒は学校に対してかなり不満を持っている」と聞きました。そして教師による3年生への暴力事件がきっかけとなり、ストライキを計画しているとその講師から聞いたのは秋でした。学校側に知られることなく、「何月何日の昼食終了後、屋上に集合」との指令が全男子生徒に伝えられます。そんなことができるのかと思っていたのですが、その日は私の勤務日ではありませんでしたが、次の日の新聞には屋上に集合している男子生徒たちの写真がありました。「こいつら阿呆やけどすごい」が私の最初の感想でした。時間講師たちの多くも同じだったらしく、学校側に生徒たちと話し合って下さいとのビラを職員室に配布して、始めて職員会議にも出させてもらいましたが、専任の先生方からは「お前らは泥棒だ。学校の紙と印刷機を無断で使用した」と言われただけでした。多分「お前らのような奴がおるから、生徒がつけあがるんだ」と思われたようで、年度末には全員クビになりました。もっとすごいことも起こります。このストライキの指導者の1人の生徒が小さな事件を起こすと、他市にある鑑別所に送りこまれました。そこを出た生徒とその家族の話を聞くと、鑑別所の所長から「この程度のことでここに送られることは今まで無かった」と言われたとのことです。警察に頼んで公開処刑したと感じました(K察は相変わらずお偉いさんの味方やな)。しかし、この経験が大学にいられなくなった(いたくなくなった)私の進路を教員と決めてくれました。こんな生徒といると退屈しませんから。大学9年目にして教養部で教職免許のための講義を受けました。
また授業が分からない生徒はよく早弁もします。最初の頃は止めろと注意していたのですが、3学期になってもうここも終りだと感じていたので、早弁する生徒に「何やってるんだ、俺だって腹が減っているのに」と言いながら弁当のおかずをつまんで食べました。クラスが沸きました。そして何故か次の時間から早弁が激減しました。もっと早くからこれをやっていれば良かったなと思いました。おかずをとられるのが嫌だったのかな。
そして、高校教員のカリカチュアが私の頭に浮かびました。高校教員は殿様で、職員室という城の中で単位認定剣(権)という刀を持って「ええい、寄るな。3歩下がって土下座しろ。それ以上近づいたり口答えをすると、この刀でたたっ切るぞ」と叫んでいるのです。
その後この学校の教員だけで無く、私のカリカチュアが裏付けられたと感じられることを経験しました。皆さんは通信添削という、受験指導を仕事にしている会社があることをご存じでしょうか。要は広範囲に住む生徒から金を取り、問題を送付して返送された答案を採点ではなく、添削して返す企業です。その添削をするのは主に教養部の学生のアルバイトです。ただしかなりの高額料金なので会社としても、添削されたものを、そのまま返送するわけでは無く、その添削をチェックします。私の友だちがその仕事をしていたのですが、会社にやめると言うと代わりの者を連れて来いと言われたので、お前やれということで引き受けました。模範解答をアルバイト学生には配りますので殆ど答案は、私が加筆訂正することはないのです。しかし、それらとは別に「こちらは市内の私立高校の先生が添削したものです」と、意味ありげに渡されました。最初は先生がしたものならチェックする必要がないと軽い気持ちで受け取りましたが、その添削は『ひどい!!』の一言でした。答案を全然見ていないのです。答案が正解かどうかではなく、模範解答と同じかどうかだけを見て、正答でもバツをつけ、模範解答を丸写しにしていました。答案の中には模範解答よりもいいと思うものもあるのです。だからその先生が添削した答案は赤インクで一杯ですが、私はインク消しで全て消して、乾いてから添削をやり直すのが殆どでした。
この先生はどんな授業をしてるんだろうと、考えたら私の思ったカリカチュアしか想像できません。そして大学も同じでした。入学した時は大学に残りたいと思っていましたが、最後には「もうこんな所にはいたくない」と飛び出しました。学生7年目からは(大学卒業まで9年かかってます)しょっちゅう教授と怒鳴り合っていました。教授室に来いと呼ばれると、椅子に座った教授が「なぜ俺の指図に従わないのか」、立たされている私は「なぜこんな無茶な指示に従わなければならないのですか」の応酬です。
皆さんは職員室は好きですか。そんなに多くはいらっしゃらないと思いますが・・・。なぜなら職員室に来いと言われたら、全職員の中に1人だけで叱られることが多いし、自分の言い分は絶対に通らないどころか教師の指導に従わない反抗的だと決めつけられるからだと思いませんか。教師の側にしても同調圧が強くて、ある生徒が非行をしたと職員室に呼ばれた時、その非行はこの生徒がした物ではないと確信したが、他の教員にはそれを言えなかったと話してくれた教員がいます。多分警察での冤罪事件もこうやって起こるんだろうなと思いました。だから先生方は職員室が大好きです。完璧な防御体制の整った城だから、絶対安心できます。
先生は授業だけをしていれば良いのではありません。その他に校内分掌という組織としての学校運営に関する役割分担があります。そこで嫌われるのが校外の人たちとの折衝をしなければならない役割です。最も嫌われるのは「同和教育」、リーマンショック後の就職に関する「進路指導」です。どちらも相手から言われることを尊重しなければならないからです。この2つを4年間ずつやらされましたが、職員室嫌いの私には最高でした。大っぴらに、時には出張にまでしてもらって職員室を抜けられるからです。
私は授業でよく脱線して雑談をします。そのせいで時々生徒と議論・口論になります。その殆どは終業ベルが鳴ると終わるのですが、一度だけ授業後に廊下にまで私を追いかけて来て怒鳴り声に近い感じで話してきました。「よし、次の時間はその事について話し合おう」と言うと「職員室に連れていくんやろが」と余計けんか腰になってきましたが、「いや、俺も職員室は嫌いやから、二人だけで話せるとこに行こう」と言うと「分かった」と言って、そのまま教室に帰っていきました。ああ、こいつも職員室嫌いで、そこに連れて行く教師も嫌いなんやなと感じたことがあります。会社勤めをしていて教員になった先輩教師が時々「教員の常識は社会の非常識」と言われていたのを思い出します。
私の結論です。『国は政治家のためにあり、学校は先生のためにある』
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