人間の行動決定に関する話

人間は自分の行動を外的な制約を受けず、自らが主体的に決定している
こうした考え方は一般的なものとなっている

しかし、一方でこうした考えを覆すような実験が社会心理学に置いて多く行われている

今回はこうした人間の行動決定に対するアプローチを心理学と脳科学の観点から見ていきたい

1 ミルグラム実験

非常に有名な実験であり心理学を習ってなくても知ってる方が多いのではないだろうか?

実験の概要としては被験者と被験者のふりをしたサクラを先生役と生徒役に振り分ける
その際、被験者は必ず先生役になるように振り分ける

そして、被験者は生徒役のサクラが答えを間違えるたびに電気ショックをかけ、間違えるごとに電圧を一定の値ずつ上げていくように求められる

サクラの生徒は実際には電圧はかかってないが予め録音しておいた苦痛の言葉に合わせて150Vぐらいの電圧になってから痛がる演技を行い、徐々に痛がる演技を激しくしていく

そうした中で様々な条件を変えて何人が電圧をmaxの450Vに到達するまで電気ショックをかけ続けるかを計測する実験である

通常の状態だと65%の被験者が450Vまで到達した
また、被験者の役割を電気ショックのボタンを押す事だけに限定した場合、93%が450Vに到達した

一方で、先生役の仲間のふりをしたサクラの一人が被験者に電気ショックをかけることを止め、もう一人がかけるよう勧めた場合、誰も450Vには到達しなかった

ここから被験者は自らの責任を回避出来た場合、450Vの電圧をかけられる事が分かる

同様の実験が他の地域などでも多く行われたがその結果は殆どこれと類似したものだった

ここから分かる事は

人間の行動は内的性質によるものだけではなく、社会的状況に大きく左右される

と言う事だ

一方で人間には最初に述べたように人間の行動における外からの影響を軽視し内的要因を誇張することが多い

こうしたバイアスを"根本的帰属誤謬"と呼ぶ

2 シンバルドの実験

こちらも有名な実験かも知れない
スタンフォード大の学生24人を半分は看守役に、もう半分は囚人役に振り分け、とてもリアリティのある環境の中で2週間の間それぞれの役を行ってもらうと言う実験だ

この実験結果は衝撃的なもので看守役の学生は相手が同じ学生の被験者だと分かりながら囚人役の人に対して非常に残虐な虐待を行ったのだ

あまりに看守役の行為が暴力的過ぎたのでこの実験は2週間の予定の所を6日で中断している

この実験から

人間は意思によって行動を選択するのではなく、行動に応じた意思が形成されるのだと分かる

3 自由意志に関する哲学的な議論

自由意志に関する議論は哲学的なものから起源を発する

19世になると近代科学が発展していき、多くの物理法則が解明されていった
こうした中で生まれたのが"決定論"である

決定論は簡単に言うと世界の全てのものは物理的な物体であり、人間も例外ではない
物理的な物体である以上、物理的な法則に従うのでその物体の未来は既に決まっている

つまり、世界の全ての物体の未来は予め決定されている

これが決定論の主張である
こうした主張の象徴的な存在がラプラスの悪魔で、ラプラスの悪魔はこの世の全ての物理的な事象を把握しているため、全ての物体の未来が完全に分かる

しかし、量子力学が発展してくるとこうした決定論は覆され始めた
量子力学は電子などのミクロの物体を取り扱う科学だが、ミクロの物質はその動きがそもそも決定されてない

つまり、どのように動くかが決定していない

こうして、決定論は否定されていった

4 脳科学から見た自由意志

脳科学では一貫して自由意志を否定してきた
我々は意識的な決定を表すシグナルが行動の0.2秒前に現れるがその0.35秒前にはそれを促す準備電位が現れる

つまり意思決定より前に脳が決断を下しているという事になる

我々の意思は我々が自由な選択の元、そう意思していると思い込んでるだけで実際は脳の活動に決定された行動を自らの意思だと勘違いしている

そう主張してきた

しかし、近年の研究で行動する0.2秒前までならその行動を中断出来ると言うことが分かった
これによって脳の決定に対して自らの自由意志が干渉することが可能であると明らかになった

つまり自由意志は現在のところ存在するという事になっている

5 まとめ

我々の行動は何によって決定されるのか?
こうした議論は中々難しく、しっかりとした正解が出るまで時間がまだかかるだろう

だが、我々の行動が外部の状況の影響を受けやすく、その事は往々にして軽視されがちであるという話は知っておくと良いかもしれない

我々は行動の責任を個人の内面に求めがちだが実際の所、改善すべきは外的状況にある可能性も高くそれに気付かなければいつまでも改善はあり得ないだろう



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?