#056 花摘む男たち
男性が立って花を摘む時、一般的な女性には縁のない専用の器を使います。
ベルトを緩め、ズボンのチャックを下ろしていざ事に及ぶわけですが、常々思っていることは、ほとんどの皆さんがその器に近い。近過ぎるということです。
外にこぼしちゃいけないという礼節でしょう。人様に見せるもんじゃないという羞恥の心でしょう。圧倒的な存在感のそれを見せつけることによって圧倒的な敗北感を味わわせてはいけないという気遣いかもしれません。
その思惑がなんであれ、いずれにしても皆さんものすっごく近い。
どれくらい近いかと言えば、ベルトの先っちょ、チャックのペロッとなったところ、自分のぶつを支えている、もしくは抱えている腕のシャツ、そうしたあれこれが器に触れるくらい近い。
女性にはよく分からないでしょうが、そういう男性がごく普通にいて、たとえばベルトのバックルと陶器の触れ合う音がカチャカチャと聞こえてきたりします。
そんな時、僕は決まって心の中で(ヒィィィーーー……)と卒倒しそうになっています。(ゾワワワーーー……)と総毛立っています。全然潔癖症じゃないんですよ。落ちた食べ物に3秒ルールは余裕で適用しますし、シーツなんて洗わなくても平気。小学生の時にはほの暗い机の奥底でカビパン作りを嗜んでいたこともあります。
だけど、近いのはあかん。触れるのはほんまあかん。あれ、なんでみんな平気なんだろう。僕はといえば最低でも30cmは距離をとり、いよいよ勢いがなくなってきたら、半歩踏み出して器に近づき、最後のひと絞りを狙い定めて飛ばすことによってきっちりと収めています。美しい飛型からのテレマーク。そんな感じ。
見られたって全然平気。触れることを思えばまったくもって平気。世の中には相容れないことがたくさんあります。
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