#051 冒険の土手
高校2年生になる前の春休み。僕はヤマハ・メイト90に乗って、宇治川の河原にいた。琵琶湖を水源とし、淀川と合流してやがて大阪湾へ注ぐ川だ。
宇治川に沿って下れば、つまり海を目指すことができる。16歳にしては、試す価値のあるものだった。
暖かいある日、それを決行することにした。決まりごとはひとつ。車道であれ、自転車道であれ、歩道であれ、整備されたちゃんとした道は使わないことだ。べつに前人未踏を気取りたかったわけでもなく、「大人の敷いたレールになんか従いたくない~」とか尾崎豊な心境だったわけでもなく、ただなんとなく。
観月橋のたもとで河原に降り、いざ出発。水の流れを横目に突き進めばいいのだから、もちろん地図は必要ない。燃料は満タン。もしもの場合に備えて、パンク修理用のキットだけはかばんに入れておいた。
河原と堤防の間をつなぐ、土手をジグザグに走っていった。斜度はどれくらいだろう。25度~30度くらいだろうか。スロットル操作や体重の掛け方に注意しないとすぐにズルズルとタイヤが滑り、平地まで落ちていってしまう。身体もバイクもまっすぐなのに、地面が斜めだからバンクしているように感じられ、その感覚がえらく楽しかった。ズルズル、トコトコ、ズルズル、トコトコを繰り返し、大阪湾へ。
だけど、淀川まで辿り着くこともできず、その冒険は終わった。途中で小さな支流が横切り、クレパスのように土手を分断していたからだ。幅は2mもなかったと思う。イーブル・クニーブル気取りでジャンプすれば、風間深志ばりにど根性を出せば、もしかしたら越えられたのかもしれないけれど、それができなかった。
ちょっとした失望と不甲斐なさを引き換えに、バイクされあれば(それがたとえ親父くさいビジネスバイクだったとしても、たとえ近所の土手だったとしても)、冒険の舞台を自分で作り出せることを知れた。それは案外大きな体験だった。
そして、その時はあきらめたけれど僕はまあまあしつこい。今、軽トラとトライアルバイクで武装しているのはだからだ。もはやどんなところでもバッチコイ。そうやすやすとは止められないし、止まらない。
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