#112 減速

バイク雑誌の編集部は年がら年中、人材を募集している。本当に週休２日なのか、バイクに囲まれて毎日が楽しいかどうかは知らないけれど、編集者になることも、少しばかり経験を積んでフリーランスになることもとても簡単だ。なにせなんの資格も要らない。よく「好きなことができていいですね」と言われる。そうですね。

そういう募集案内を前にして、年がら年中「もう少し早く知っていれば」とか「あと10歳若ければ」とつぶやくひともいる。仕事を変えることなんて全然難しくない。過ぎ去った時間は取り戻せないけれど、現状維持と現状打破を天秤にかけて維持を選ぶひとは、きっと10年前でもそうしていた。

 方向を変えるなら減速しなければならない。少なくともそうした方が効率がいい。だけれども、ブレーキを掛けられないひと、掛けないひとが多い。なにをするでもなく、ただ「あー」と通り過ぎていく。時々ブレーキの調子は確かめておいた方がよい。

 ストレートスピードはエンジンのパワーが決める。コーナリングスピードはタイヤのグリップ力が頼りだ。ライダーに残された、そして最も技量が試される領域がブレーキングであり、その積み重ねがグリッドの１列目と８列目の違いになる。１位と24位の差になる。MotoGPライダー達は、みんな必死のパッチでブレーキを掛け、減速にほとんどすべてを費やしている。