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#126 半端ない

2008年、北京オリンピック(夏季)をひかえた選手団に対して、当時の首相が「せいぜいがんばってください」と発言。ちょっと物議をかもした。そこに「どうせたいした成績でもないだろうし、興味もないけど、まぁやるだけやったらよろしいんじゃないですか」という含みを感じたひとがいて、「敬意がない」と声を荒げたわけだ。

しかしながら、「せいぜい」という言葉には「最大限に」や「一心に」という意味を込められている。これはかつて普通だった。というか、それが本意なのだが、言葉のニュアンスは常に変化する。
 
同年、サッカー選手に対する賛辞として注目を集めた「半端ない」という表現。そこにあるのは、「そもそもすごいレベルにあるのに、そのすごさがちょっとやそっとのものではなく、他を圧倒して突き抜けてすごい」という意味だ。それを圧縮した「パねえ」も同じ。
 
だけれども、本来「半端」は「数や量がそろっていない」、「どちらつかず」の状態であり、それになぞらえると「半端ない」は、半端ではない状態、つまり「ぴったり」とか「定位置にある」くらいの意味でしかない。だとすると、ずいぶんと趣が違う。
 
日本語を勉強し始めたひとが辞書で「はんぱ」と「ない」を引いて、空前絶後的な語感に辿り着くのは半端なく困難ではないか……ということを書こうとしたら、娘に借りた新しい広辞苑には「はなはだしい」、「ものすごい」と載っていた。へぇ。
 
ネット上の翻訳ツールはどうなんだろうと思い、Google翻訳に「半端ない」と入れてみたところ、「not odd」だって。これを日本語に翻訳し直すと「奇妙ではない」とか「奇数ではない」みたいな日本語になり、答えからはかなり遠い。
 
ならば、翻訳の精度が高いとされるDeepL翻訳ではどうか。これがなかなか秀逸で、「impressive」と出てきた。他の日本語に置き換えると「印象的」。今現在使われている「半端ない」の意味をくみ取ろうとしていることが分かる。
 
ちなみに、「せいぜい」は「at best」。これにもまた、へぇと思った次第。

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