見出し画像

#261 優しくないバイク

しばらく動かしていなかったスコルパのTY125アドベンチャーを、最近はまたちょろちょろと街乗りに使っている。125ccの空冷単気筒エンジンで、車重は80kgほど。いかにも手軽そうだが、実際はその真逆だ。

素性はトライアルバイクなので、快適性なんぞ知ったことか。超ローギヤゆえ、エンジンはすぐに吹け切り、なのにシフトチェンジをする時はステップからいちいち足を外して、とんでもなく前方に配置されたペダルをかき上げたり、踏み下ろしたりしなければならない。左足大忙し。直進安定性なんか微塵もなく、とはいえスピードが出るわけでもない。ほとんどの機能は、上下方向のセクションをクリアするためだけにある。

扱いやすいとか、穏やかとか、優しいとか、フレキシブルとか、乗り心地がいいとか、鼓動がどうとか、通常の試乗記を書く時に用いる言葉はなにひとつ当てはまらない。日々愛用している軽トラすら足元に及ばないほど、いろいろと我慢を強いられる。

でも間違いないのは、おもしろいってこと。そして、たたずまいがよい。大体の場面では苦痛のかたまりでしかないけれど、このバイクでしか得られない浮遊の感覚がある。

便利で乗りやすいバイクが愛されるとは限らない。3つや4つや5つや6つくらいは、ハードルがあった方がなんとかしたくなる。今日できなくても、明日か、1年後か、いつかそのうちに。

先日、ドゥカティのデザートXに乗った時もそれを感じた。おもてなしの要素はほどほどに留められ(それを巧みに隠そうとはしているけれど)、乗り手がバイクの都合に合わせにいく必要がある。試されていると言ってもよく、決して乗り手ファーストではない。でも、だからこそ洗練されている。スポーツバイクとして、ピュアだ。同じカテゴリーでは、ヤマハのテネレ700もそう。バイヤーズガイド的には、GSの名を挙げておけば間違いはないのだろうけど、きっと自分で選ぶことはない。

「乗りやすい」ことと「乗りたくなる」ことは、近いようでそうでもない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?