#493 大か小か、高か低か、新か旧か 5 伊丹孝裕@partial 2024年3月15日 10:08 近頃増加中のヨンヒャクくらいのモデルについて。↓ ちょっと若い感じがあるけど、乗らないと損なクルマたち – ahead magazine archives 写真・長谷川徹/撮影協力:アライヘルメットクルマやバイクを選ぶ時に今の自分の年齢に合っていることを気にし過ぎていないだろう ahead-magazine.com 大か小か、高か低か、新か旧か。物事の真髄は両端のどちらかにあり、そこにこそ「アガリ」の境地があるように語られる。R1300GSにそれを見つける人がいれば、ある人にとってはハンターカブかもしれない。いずれの場合も酸いも甘いもかみ分けて辿り着いた感があるものの、案外その中間に漂っている、どちらでもないところに、芯はあったりする。 ビッグバイクでもなければ小型のレジャーバイクでもなく、先進的ながらもトゲトゲしいフォルムではなく、ハイパワーではないけれど不足のない動力性能を持つ。どちらでもないというのは、こうした要件のあれこれに収まる、たとえば800㏄~900㏄前後のミドルクラスあたりがそうだ。ざっくり言えば、なににでも使えるオールラウンダーであり、機能面は確かにその通り。とはいえ、車体サイズという点では、まだまだ大か、高に寄っていて、平均的な日本人にとっては持て余す場面が多い。かといって、その下を見渡すといきなり250㏄クラスになり、サイズと価格は手頃になっても所有欲は満たされない。万能は得てして中途半端でもある。 ところがこの数年、そんな状況に急激な変化が生じている。400㏄クラスの台頭、もしくは復活だ。かつてのヨンヒャクは、日本のメーカーによる日本のライダーのためのカテゴリーと言ってもよかったが、あまりにドメスティックで徐々に衰退。ホンダCB400SFの消滅は、それを象徴する出来事となった。 一方で、KTMやBMWといったメーカーが、グローバルモデルの拡充(欧州のA2ライセンス向けのモデルも含む)を図る中、この排気量帯のラインアップに力を注ぎ始めた。ハスクバーナ・モーターサイクルズやロイヤルエンフィールド、ハーレーダビッドソンなども同様で、先頃日本へ導入されたトライアンフのスピード400とスクランブラー400Xも、その流れを汲む。 グローバルモデルをもう少しかみ砕けば、インドや中国、東南アジア諸国を主要なマーケットに見据えたモデルを意味し、もっと言えば、低コストであることが求められる。したがって、ほとんどのモデルの生産拠点はそうした国々に置かれ、投入されている技術も特別なものではないのだが、乗ると存外これがいい。複雑な機構を持たないということは、つまりシンプルなことと同義である。搭載されるエンジンは大半が単気筒で車体は大きくなりようがなく、車重も重くなりようがない。そのプロポーションには大抵、丸目ヘッドライトとバーハンドルとスチールパイプフレームを組み合わせた、定番にして王道のネイキッドスタイルが与えられ、誰もが思い描くバイクらしさを纏っている。 メカニズムもデザインもオーソドックスで、軽くて手頃なバイク。こうしていくつかの素地を並べてみると、1台のモデルを思い出す。そう、SR400だ。SRは、1978年に登場し、ほとんどなにも足されることなく、2021年に生産を終えた(現在はタイのみ存続)。一時は3倍ほどに跳ね上がったプレミアム価格はファンの嘆きそのものであり、確かに空冷単気筒ならではの「素」の味わいは、他に代えがたい。 そのまま乗るもよし、豊富なパーツで着飾るもよし、チューニングしてパフォーマンスを高めるもよし。その自由度に大きな魅力があり、あれもこれもそれも……と詰め込まれて肥満化したハイスペックモデルの対極に在り続けた。ファイナルエディションの発表は、ひとつの時代の幕引きにもなったが、既述の海外メーカーとホンダGB350が、SRの役割と入れ代わるように登場。開発陣にその意図はなくとも、すべてがちょうどよいところに収まってくれている。 もちろんそれらは、SRほど、アルミやスチールの手触りを伝えてくれない。SRほど、きめ細やかな作り込みは成されていない。しかしながら、SRとて登場した頃はどうということのない存在だった。SOHC単気筒と、それを包むナローな車体は、そっと世に送り出された時からすでに古めかしく、500はまだしも400の鼓動は「ビッグシングル」という語感から発せられるイメージほど力強くはなかった。ただし、伸びしろに気づいた大人がそれぞれのこだわりでそれを引き上げ、スペックに捉われない若者が追従。長い年月を掛け、ひとつの理想的なムーブメントが出来上がったのだ。 その意味で、トライアンフ スピード400を筆頭とする新たな400㏄モデルもまた、よき素材である。一見若者向きであり、SRよりずっと洗練された完成品ではあるが、手に入れてからのステレオタイプではない使い方に、大人の経験と知識が活かせる。排気量分けにも、それがもたらすヒエラルキーにも縛られる必要はない。自身のキャリアと、これから先の楽しみ方を照らし合わせた時、「お待ちしていました」と迎え入れてくれるモデルが、ここに充実しつつある。『ahead OVER50』 2024年3月号 ダウンロード copy 5 この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか? サポート