#086 今の気持ちか、過去の気持ちか、過去になりつつある気持ちか
仕事として文章を書くようになって20年、フリーランスのライターになって15年ほどが経つ。キャリアに準じてその難しさから解放されるということはなく、それどころか極めて簡単なひと言の使い方すら分からなくなる。疑問が湧いたり迷ったり。
「ありがとう」なんかがそう。
プレゼントでも、頼んでおいた書類でもいいのだけど、直接手渡されれば「ありがとうございます」と言う。机の上に置かれているなど、直接の手渡しでなければ、後で「ありがとうございました」と言えばいい。
でも、たとえばお歳暮の品が宅配便で届き、お礼の電話をする時はどうだろう? 「ありがとうございます」なのか、「ありがとうございました」なのか。 受け取ってすぐと、出張かなにかで数日経過した後でも微妙に違ってくる。
会釈しながら誰かを迎える時、あるいは見送る時。「(本日は遠いところ)わざわざありがとうございます」なのか、「ありがとうございました」なのか。至近距離で対面している場合と、数メートル離れつつある場合でもちょっと異なる気がする。
「ます」と「ました」。表明したい気持ちが現在形から過去形へうつろう境目は曖昧模糊としていて、それを発するひとの気持ちと受け取るひとの気持ちにも個人差がある。
ここまで読んでくださったことは、「ありがとうございます」なのだろうか、「ありがとうございました」なのだろうか。ニホンゴムズカシイ……
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?